第十四話 「予兆」
それでは第十四話、スタートです。
前書きが思いつかないorz
教室を出ようとする俺の手を掴み、潤んだ瞳で見つめて彼女は言った。
「――――今日の帰り、ウチ、寄ってくれない……?」
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え?どういう事なの?「ウチに寄ってくれない」って、え、何?『そういう事』なの?いや「今日は親いないから」的な事は言ってないしイヤイヤでも『そういう事』だよね?え?俺は何もそこまでの仲は望んでいないって言うか恐れ多いって言うかそれよりもルート入るの早過ぎぃ!!まだ四月を一週過ぎた程度だぜ!?最近は無自覚系主人公云々言われてるけどこれからは無自覚系ヒロインの時代なのかでも流石にもうちょい時をおいてからでもしかし据え膳食わねば何とやらで俺も曲がりなりにもって言うか生物学的には男なわけでええっとこれって着替えてから行った方が良いのかって言うかこっから先の展開はノクターンこれ以上はノクターンだと、
…………………………落ち着こうか。
一瞬の間で一体全体何を考えているんだ俺は。途中に関してはゲーム脳にも程があるだろ、現実見ようぜ俺。
俺は馬鹿か。いや、馬鹿だ。
まぁいい、今は落ち着け。素数だ、素数を数えるんだ……。
……………………。
………………。
…………、よし。
「……ぇ、っと……」
カラカラに渇いた喉からは擦れるように声が裏返って零れた。
全然落ち着いていなかった。
駄目だ、こりゃ。
# # #
やっとの事で真意を尋ねると、どうやら俺に訊きたい話があるらしい。
「はぁ……」
自転車に跨って駐輪場を出ると、いつものように校門で待ち合わせていた二人の後ろ姿を見つける。
こうしてみるとチカの背の大きさがよく解る。こちとらバレーボール経験者なもので、百八十を超えてやっと背が高いと認知されるような気がしていたのだ。当時は百五十センチメートルだった俺は苦労したものだった。今となってはどうでもいいが。
俺が声を掛けるよりも先に気づいたようで、振り返っては笑顔で手を振ってくれた……ミサだけは。チカは不貞腐れたようにそっぽを向いてしまった。これもいつもの事だった。
――――何かが頭を霞めた。嫌な予感とも言い換えられるかもしれない。
だが、
俺はそれを振り切るように頭を掻いて自転車を降りて近づいた。
そして。
いや、それこそいつものように。
俺達三人は昔のように他愛もない話を駄弁りながら、ゆっくりと歩いて帰路に着いた。
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とはいえ、
「いつものよう」だから落ち着くとは限らない。「いつものよう」だからこそ不安になる時だってあるのだ。今の俺はその事を強く実感していた。
さっきからチカとミサと駄弁りをしてはいるものの、内容が他愛もないという事以外ちっとも頭に入ってこなかった。脳が別の思考にソースを割かれていて、正に容量、いや要領を得ていないといった感じだ。
何だろうか。教室を出る直前の会話の所為なのか。チカのいつもの綺麗なのに無愛想な表情が今日は意味が違って見えるのだ。自意識過剰と言われればそれまでなのだが……。
「な、何よ」
横顔を見つめていたのがバレたようだ。睨むチカの横を歩くミサに視線を移して俺は誤魔化した。
「いんや、二人を見ててそういやココの学校の生徒って化粧しないなーって思ってな」
「「へ?」」素っ頓狂な声を上げるチカとミサ。
こういうの見るとこいつら本当は姉妹だろとか思ってしまうのは俺だけだろうか。
「いや、以前というか向こうで通ってた高校はケバいとまでは言わねぇけどそれなりとか薄っすらとか化粧をしていた奴は多くてな」
そう言えばサチも化粧なんてして……寧ろ知らないんじゃないかアレ。そんな金があったら本か本棚買う奴だろアイツは。
「何よ、それは遠回しに喧嘩売ってるワケ?」
キッ、と。弾劾するような人を刺せそうな視線で俺を改めて睨みつける、お隣兼幼馴染みなクラスメイトその一略してチカ。……「チ」も「カ」もねぇよ。「血」と「力」は絶対あるけど。
「はぁ?何故だし。つーかお前らは化粧しなくても十分だと思うぞ」
「「な――」」
「少なくとも俺はそう思うんだが……どうした?」
俺が訂正するように言うと、二人は目を丸くしていた。鳩が豆鉄砲を食らった顔とはこの事だろう。
ついで顔を噴火寸前の火山を彷彿させんと真っ赤にすると。
「「――――――――――!!」」
二人揃って声にならない叫びとなって、込み上げるその気持ちに逆らわなかったのか。
「~~~~~~~~~~!!!!!!」
全力疾走で逃げられてしまった。
……どっかで見たな、この展開。
凄い既視感がそこにはあった。
どれくらい時が進んだだろうか。
聞き慣れた電子音が高らかに鳴った。発信源の上着のポケットから音の主である携帯電話を取り、開く。
すると、
『五時にウチに来て!(`Д´#)』
先週の末にやっとの事で手に入れた≪チカ≫のアドレスから、こんな文面が届いていた。
……褒めたのに何故だし……。
# # #
俺は五時前にインターホンを押していた。
理由は単純明快。雨が降る前に要件を済ませたいからだ。既に空はどんよりとした雲が一層の翳りを魅せて覆っていたし、西の方角からは雷と思しき轟音が鳴り響いていた。豪雨が襲って来るのも時間の問題なのだ。
案の定か、慌てたような声がインターホン越しに聞こえてきた。
『ももももしもし!!?』
「俺だ、お隣の明日葉さんだよ」
瞬間、
『「五時に来いって言ったでしょーがぁああああああああああ!!!!!!!!!!』」
インターホンと目の前から同時に声が聞こえ「?」となっていた俺にドアを勢い良く開けたチカが跳び蹴りをかましてきた。
「うごっ!!?」
今日の俺はくの字のちダウンするでしょう。
# # #
「うおぉおおおおお……」
「さ、流石に悪かったわよ……でも五時だって言ったからビックリしちゃって……」
「ぅうううううううううう……」
「ごめんなさい!悪かった!!悪かったわ!!!」
さしもの鬼も今度ばかりは土下座だった。
お茶目ってレベルじゃねーぞ!!と叫んでやりたがったが、口を開くとまるっと何かを召喚してしまいそうだったので必死に抑える。色々抑える。
ヤバい、女の子の家でこの召喚獣は最悪だ。どこでも最悪だろうが今いるココはとびきり駄目だ。
嘔吐感を押し殺して俺は深呼吸した。
「ひっひっふー、ひっひっふー」
「何でラマーズ法なのよ!!」
慌ててチカが俺の背中を摩るが、それは逆効果だうぉぇえええええ……。
# # #
閑話休題。
「そろそろ落ち着いたかしら?」
チカの家にお邪魔して幾許か経った頃。
より具体的に言うならば、ライダーキックに物理的に屈し口からリバースカードをオープンしそうになる気持ちの悪さが胃で暴れるのが落ち着いた頃の事だった。
急に空気が、雰囲気が、張り詰めるかのような重たいそれに切り替わった気がした。
「教室で言った『話』なんだけど」
彼女は口を開き、俺に問いかける。
「あのさ、――――」
問われる段階になって。今更ながら、やっと解った。
あの帰り道に違和感を感じ、そして今見つめてくるこの表情は。
さながら、
神々に言い含められるも匣を開けようとするパンドラのそれのようであったのだと。
相も変わらずなミサの不遇っぷり。
多分後で何とかなるさ!
お読みいただきありがとうございました。
※誤字脱字表現の誤り等がありましたら感想にてご連絡ください。
随時修正致します。
引き続き、『おさどう』をよろしくお願い致します。




