【番外編】Trick or treat! "zombies"
改めてお久し振りです。
「「トリック・オア・トリート!!」」
「? ――うわっ!?」
朝、学校の廊下にて。
当てもなく壁に背を預けて携帯電話の画面を覗いていると、突然横から声を掛けられた。いきなり呼び止められて驚きつつも顔を上げて横を向いて――思わず携帯を手から滑り落としそうになった。
「……って、飯島さんと木村さん?」
「ピンポーン!」
声を掛けてきた人物の正体に一瞬面食らったものの、すぐに聞いた事のある声を頭の中の記憶とやらで検索にかければ一発でヒットした。同じクラスで学校行事委員の二人だ。先月の中旬にあったクラスマッチの際も慌ただしく、しかし忠実に委員の仕事を執り行っていたのをクラスメイトながら傍目で見ていた。
「どーお?」
「いや、どうと言われてもさ……びっくりしたとしか」
その一人である木村さんに尋ねられるも、なんと言えば良いのだろうか。どこから切り出すべきなのか。ぶっちゃけて言わせてもらえば、どこから突っ込んでやろうかと。
なぜなら一番面食らったのは正体ではなく、その二人の格好だったからだ。
「えー、なんかこう……折角華の女子高生がこうして着飾っているんだから、何か言ってよー」
「いや着飾るっていうか……コスプレであってるのかな?」
二人揃って頬を膨らませてブーブー文句を言ってはいるが、……多分誰が見てもそう思う筈だ。
簡潔に言えば、二人はコスプレをしていた。
おそらく、ゾンビの。
「……でもなんでゾンビ?」
それも無駄に高品質なメイク(?)、ファッション(?)だ。
例えば、口紅では表現しきれない赤黒い「血」らしいものが唇の端から顎を伝っているように描かれていたり。例えば、ファンデーションにこんな色あるの? と思ってしまう死人を彷彿とさせる青ざめた顔色だったり。例えば、わざわざ私服を汚していたり破いていたり血を滲ませていたりと服装まで徹底している部分だったり。
「でも良く分かったね」
「いや声がそうかなって」
耳に響かない、聞き取るのに丁度良い声音だなぁと二人の事を覚えていた。
「私はそんな間の抜けた声出してない筈なんだけどなぁ……」
「ちょっとささっち、しれっと私を除け者にしないでくれるー?」
そう言い合いながら笑い合う二人を見て、なんだか声を掛けるタイミングを見失ってしまう。
と、
「あっ、そうそう! はいこれどうぞ」
「私からもー」
「えっ?」
ふと遠目に見ていた二人が急接近してきてつい慌ててしまうと、手に何かを握らされた。
すぐに二人の手が離れる事に勿体なさを感じつつも強引気味に握らされた手を開くと、その手のひらの中には――。
「これって、」
「飴よ飴。生憎私達はお菓子なんて高尚なもの作れなくて」
キャンディーだった。半透明でカラフルな包装紙に10個ほど入れられた袋が二つ。市販とはいえ、包装に載っているエンブレムを見るにこの近辺ではなく都市部の方の店で販売されているもののようだ。いつだったか妹に連れられて行った事があるが、学生にしてはちょっと割高めのものだったと記憶している。
「良いのか……?」
「そういうのは女子に聞き返しちゃ駄目よ、明日葉君」
確かに。
貰った相手にそんな事を尋ねてしまうのは無粋だ。
「でもあれ、ハロウィーンって訪ねた相手が渡すものじゃ――」
「んな細かい事は気にしないったら気にしないの」
「ま、そんなわけでメリー・ハロウィーン!」
「あ、ありがとうわざわざ」
「良いって事良いって事」
「そいじゃまったねー!」
ぴゅーっ!! と嵐のように廊下を走り去ってゆく二人。ありがとうしか言えなかったのだが、本当に良いのだろうか。
ともかく。
「……流石にメリー・ハロウィーンはないんじゃないかな」
そんな下らない事を、思ったまま誰もいない廊下で呟く俺だった。
「……ふぅーん」
自分自身すら置いてけぼりの展開かと思いますが、多分説明は明日午前0時更新予定の部分で。




