【番外編】雨天決行・c
疲れたとか言って一応の予約投稿した途端寝ちゃうヤツ~ww
……自分です、すいません。
傘を届けるだけだ。
そう、傘を届けるだけ。
傘を忘れたと思しき妹にバッグに詰め込んだ折り畳み傘をあらかじめ渡しておき、最悪一緒に帰れない場合は俺だけずぶ濡れになるだけで済む。そんな単純な計画ともいえない何かだった。
自分が濡れ濡れの透け透けになる事態はあの二人の幼馴染みと妹と一緒に帰れれば多少なりはなんとかなるだろうと大雑把な憶測をつけて。最悪の場合における小さな自己犠牲に若干昏い満足を得ていた足取りは軽く、衆目に晒される学校でなければ鼻歌混じりだったかもしれない。
だからこそ気付けなかったのかもしれない。
そこまで頭を回していたつもりで、すっかり失念していたのかもしれない。
そのせいで。
まさか。
妹のクラスの扉を引いて中に入った途端、またしても女子が思い思いそれぞれ服を脱いでたり体操服に着替えかけていた場面に遭遇するだなんて。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
沈黙ではない。
もはや無言の絶叫だった。
頭の中ではどうすればいいか様々なパターンが瞬時に浮かんいくのだが、それが沸騰した水の気泡のように膨れ上がって許容量いっぱいいっぱいにしてしまう。混乱の余り何を語ってるんだこいつ状態で悪いが、冷静さを取り戻した今ならこう断言できる。
『コイツ、ただパニックになってるだけっすよ』と。
「…………、」
悲鳴はなかった。
深夜の灯り一つない街の中を歩かされるような不気味さが、教室の中を包み込む。
口をパクパクと開閉して声が出せないままらしい黒髪三つ編み眼鏡とかいう委員長属性てんこ盛りな少女や、口元を押さえて視覚的な意味で身体のガードが疎かになっているカチューシャを付けた茶髪前髪パッツン少女など、色々な女の子が色取り取りに目に入る。
一学年下だからか、以前見た同級生のものと比べるとどこか幼げに見えるささやかな面積の布生地がカラフルに視界に映るのを、あってはならない事態にフリーズした俺には拒めずに記憶に刻み込まれるしかなかった。
一応言っておく。
悪気は全くなかったし、邪な思いも全くなかった。
ただ気付かなかっただけだったのだ。
なぜ廊下に人気がなくて、ここに来るまでに窓の外から見えた体育館への渡り廊下にぞろぞろと男子生徒が向かって行っていた理由に。
「――っき」
「き?」
誰が言っただろうか。
漏れた声に俺が反射で尋ねた。
「っきゃああああああああああああああああああああっ!?!?!?」
直後、絶叫が迸った。
余りの高音と大音量に、外に広がる雲から落ちた雷かと錯覚した。
慌てて事態にピントが合う。
「わー待った待って待って! 決して、決して怪しいものじゃないから!! ほ、ほら傘! 傘届けに来ただけだから!!」
手に持った折り畳みの、取っ手が可愛らしい犬の顔になっている五〇〇mlペットボトルくらいの大きさの傘をブンブンと振って、合唱のように音の調子を一致させる悲鳴に対抗しようとする。が、直後に『俺の顔知ってるの妹くらいじゃん』という重大な欠陥に遅まきながら思い至った。当然悲鳴は鳴り止む事はなく、雨粒が地に降り注ぐ音すら聞こえない程だった。
「はーいストップストップ。一旦ストップなのです」
そこで、あわや通報一歩手前の窮地を救う鶴の一声が絶叫の中に混ざる。途端に統率を図ったかのように一気に静まり返った。
「希……?」
「はいはい兄さん、ご用件はなんでしょうか」
いっそ(おかしな話だが)見慣れた姿に落ち着きを取り戻した。
「むー……。そんな設定にしないつもりだったのですが。むしろ見せ過ぎた事で耐性を上げてしまったとか……?」
「あのー? 聞いてます?」
「この折り畳み傘で帰り道にチャンバラしても問題ないという話ですよね、聞いてます」
「折り畳み傘からどうしてその方向へ行く!?」
そもそもそんなリーチじゃ不利だろうに、と経験者ならではの反論が浮かんだのは内緒だ。全ては遠き日の過去にでもしまっておこう。
「普通に帰り道に差す目的で使え。ほらクラスの用事とか他に誰かと帰るならお前傘持ってないから濡れちゃうだろ? お前は風邪引いたら長引くタイプなんだし、日頃から気を付けないと」
「ふむふむ、成程です」
それでは預かりますですありがとうございます、とぺこりと頭を下げてから。
「……兄さん、逃げるなら今の内です。後は希がなんとかしますから」
「っ!」
ボソリと俺一人にしか聞こえない声量で呟かれた言葉に、俺は黙って従って全力で教室を後にした。背後から何か聞こえた気がするが気のせいだと思い込む事にした。
そう言えばこの時に廊下にいたか別クラスで授業前に来ていた教師に悲鳴で気付かれていたら人生レベルで一巻の終わりだったなぁ、と後程振り返る事になるのはまた別のおはなし。
最近予定が詰まりに詰まりそうなので、もしかしたら不定期更新になるかもしれません。
そうなった場合は申し訳ございませんorz