第08話 くじゅう・c
今回は会話文過多。
なぜこうも偏るのかと我ながら思いながら書きました、まる。
「……あー、コホン」
一悶着から数分後。
騒がしくなりそうな妹や凝固しっ放しのサチを上の妹の部屋にでも押し込んで、来客の待つリビングに戻った。
面倒な方向に誤解が捻じれてくのを回避したかったのもあるが、それの他にもこの後輩には言いたい事があった。
「御園あかり……ちゃん? さん? どっちで呼んだ方が良いかな?」
おっかなびっくり、地雷原で地雷に触れないように足を進める感覚で目の前の後輩に尋ねる戸頃から始める事にした。
「どちらでも大丈夫です」
「じゃああかりちゃんで」
流石にあーちゃんとは呼べない俺だった。
ちゃん付けに若干の照れが残るが、拭うように次の言葉を紡ぐ。
「あかりちゃん。希……妹がお世話になってるようで、ありがとう」
これが一番言いたかった言葉だったから。
「いっ、いえそんな事……」
案の定、唐突に言われたあかりちゃんは戸惑うように控えめな胸の前で手をブンブンと振る。
その反応は予想してたけど、でも言いたかった。
「いや妹って結構のほほんと言うかさ、マイペースながらに人付き合いは上手いんだけど、中々『家まで呼ぶ』なんて事なくてさ……」
「は、はぁ……」
困惑のまま、しかし礼儀正しく背筋を伸ばして姿勢を正しながら、あかりちゃんは黒く輝くような瞳を真っ直ぐ射抜くようにこちらを見て、耳を傾けてくれる。
おかげで、すらすらと言葉が口から発する事ができる。
「そんな妹が新しくこっちに引っ越してきて、家に呼んで一緒に過ごしたい人ができたってのが嬉しくて」
妹がこの場にいたら、とてもじゃないが言えなかったから、結果オーライなのかもしれない。そう思いながら、改めてそのフレーズを口にした。
「だから、ありがとう」
「は……いえ、本当に私こそ一緒にいれて楽しいというか」
「振り回される事も少々……いや多々ありますけど…………」
「ああ……うん、そこは…………うん」
「ですけど」
「だからこそ、振り回されたりするからこそ色々知れたものがあって。例えば音楽とか、マンガとか。そんな私一人だけじゃ手に取る事がなかったものに触れる機会が増えたりして、更に会話の話題が増えて……みたいな経験は初めてで」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「いや……」
そこでふと、テーブルを挟んで目が合った。
お互いに気恥ずかしくなったが、目を逸らすよりも先に笑いが込み上げてしまって、揃って噴き出してしまった。
「で、だ」
「はい」
「……最初家に来た時俺の事睨んでた気がしたんだけど。俺、何かしたかなぁ……?」
あはははと誤魔化すように笑って、俺は自ら地雷原に踏み入るかのような爆弾発言を投下する事にした。なんかお互いの雰囲気も多少良くなった感じしたし、ね? という事で聞いてみたのだが……。
「…………………………、」
あっ、ですよねー。
そういう顔しちゃいますよねー。
「ま、まぁ忘れてくれてたならむしろラッキーなんですけど……」
「うん?」
と、急に微妙な表情がほんのりと赤く染まってゆき、早口にそんな事を言い出した。なんでさ?
「…………、」
――あ?
あ。
「あああああっ! 思い出した! 白のあの娘か!!」
「思い出さなくていいですからっ!!」
何かを思い出した時特有の、あの疑問が氷解した時ならではの高揚感のままものの見事に口を滑らせた俺だった。
圧 倒 的 白 。
イメージは『艦隊これくしょん』の榛名。
そんなわけで次回は「白」に関する過去篇っぽい番外編。
まーた箸休めかよと思ったそこのあなた、正解!