≪夏熱≫【上】
はい来ました、告知通りの夏回です!
既存のキャラでかつ初見でも見れる無駄な心遣いを使って作りました。
……プロット(?)の段階でいつもの3000字超えちゃったので本編とは別で上・中・下の3000字☓3編構成にします。【中】は13日、【下】は15日の予定です。
あ、≪8月限定≫とは銘打っちゃいるけど、後で加筆修正して本編に組み込みますから!……いつの話になるのやら。
ではー、ど-ぞー(実夏風)。
八月某日。
本日ハ晴天ナリ。
それどころか、
「暑過ぎだろコレ…………」
今朝のニュースで『本日は例年でも類を見ない猛暑日になるでしょう』とか言われて来てみたらコレだよ!……もう電車で帰りたくなってきた。帰ろうかもう帰ろうよ。だって猛暑日って事ぁ三十五度以上は確定なんだぜ!誰だよこんな日に海行こうとか言い出した頭湧いてるお祭り野郎は!!
後ろを振り返れば、
「うだー、融けそうですよ兄さん」
「何なのよこの暑さ……」
「エヘヘ……何処からかかき氷を食べてる音が聞こえるのです……」
「……………………」
阿鼻叫喚とまではいかないにしても皆酷い有様だった。一人は幻聴が聞こえてるみたいだがもうこの際無視する。多分まだ大丈夫だ。既に一人ノックアウトされていて、俺が背負っていたりするしな。その為一番苦しいのは誇張でも何でもなく俺だ。超褒めろ。
…………どうしてこうなった。
# # #
明日葉家・リビングにて。
取り溜めていた『SA〇Ⅱ』を妹の希と観ている時の事だった。
誰が言い出したのだろう。いや、俺が言い出したのだ。
「そうだ、海に行こう」
さながら天啓を授かった気分だった。ジャンヌ・ダルクってこんな感覚だったのか……いや俺そこまでどころか全然立派じゃないし。
『ガ〇ガリ君』を艶かしく(何でさ!?)食べながら、妹がこっちを向いてきた。
「兄さん、いきなりどうしたんですか?流石の兄さん検定一級の私でも理解できませんよ?」
「まずそのアホ臭い名前の資格が理解出来ねぇよ、っと」
「え、あ、ちょ、兄さん?」
『〇ARM』を食べ終えてそう言うと、すぐさまリビングを出、螺旋式の階段を上って二階の自室へ向かう。
そして机に放り投げられていた携帯電話を手に取り、慣れた動作でアドレス帳を開く。
「こ、れ、で、よしっ!」
実に簡素な文面を打ち込み、送信先を再度確認して送る。電子的な音と共に≪送信されました。≫と表示され、安心してパチンと閉じた。俺は満足げに微笑むと踵を返してシャワーを浴びに風呂場へ向か――おうとしたタイミングに電話が来た。
再び携帯電話を開くと≪着信 チカ≫と表示されていた。
『チカ』とは我が家の右隣に住む七年前にココに住んでいた頃の幼馴染みである大山智香の事だ。綺麗な黒髪ロングが特徴的。で、名前の誤読から『チカ』。
閑話休題。
俺は呼び出しに応じた。
「もしもし?」
『アンタ、馬鹿じゃないの!!?』
開口一番から怒号だった。うだー、耳がキーンとする。
「どうどう、落ち着け」
『私を何だと思ってる訳!?いい?私は冷静よ?』
冷製の間違いじゃなかろうか。会話はヒートアップしてるけど。
「解った解った。で、何だよ?要件を言ってくれ」
兎に角、何の話かがサッパリなので先を促す。いや大方数秒前のメールの事なんだろうが俺には思い当たる節がない。簡潔で単純明快を心掛けたのだから文の誤字もない。
『はぁぁぁ~…………』
だが大きな溜め息をついてから、呆れたように彼女は言った。
『何でイキナリ≪明日、海行こうぜ!≫なのよ……せめて皆の予定を訊きなさいよ』
どうやら簡潔で単純明快過ぎたようだった。
# # #
そんなこんなで二日後の事。
俺含み計五人は電車で涼みながら海へ向かっていた。
今から行く海は俺の通う学校の最寄駅からおおよそ三十分で着く距離の所に拡がっている。事前に調べたら海の家もあるという親切設計&幾ら夏休みだろうと平日には人気ゼロとの事だったので即決だった。異論は認めなかったし出ても来なかった。最早伝承レベルの海の家で砂雑じりの焼きそばを堪能したいし第一大人数の場所はむさ苦しくて嫌だったので一安心。準備も万全(二リットルペットボトル六本+ビニールシート【大】一枚+パラソル【大】二本etc……)で、女性陣は昨日の内に駅前のショッピングモールで水着を新調して来たみたいだし、気分はクライマックス。違う、MAXだ。
それにしても。
「よくもまぁ皆の都合が合ったな」
俺がそう呟くと、前方から声が飛んで来た。チカだ。
「アンタの計画性のなさに一昨日の私はビックリしたわよ……」
「悪かったってば……だからこそだよ、他の予定とかあったんじゃないのか?」
「べ、別に、………………だったのよ」
「は?今何て言った」
「何でもないわよ!」
「はぁ。てっきり「『雪女』とか言って皆敬遠してるから暇だったのよ」って言ったのかと」
「聞こえてるなら訊くんじゃないわよ!!というかソレも聞いてんじゃないわよ!!!」
おおー、早速一人テンション(?)が上がってますねー。上がり過ぎて堪忍袋が切れそうで俺は心配です。
からかってるとその隣からも声が飛んで来た。
「私は貴方が可哀想だと思ったので来たのですが……いや何でもありません」
「何だよ今の間!?」
「粗相、しないで下さいね?」
「人権侵害だ!」
人をペットと勘違いした発言をするのはクーラーより冷気を醸し出す少女、水無瀬幸。俺の反論に、独特というか毒々な毒舌と無表情がトレードマークな通称・サチは鉄面皮を少し驚愕に染めて言う。
「貴方に人権ってあると思い込んでるんですか?……日本国憲法読んだ事あります?」
「小五の時お前に読まされたろ!」
俺とコイツは大の本好きだ。サチに関しては中学時代『書姫』と陰で囁かれてたしな。ちなみに今も文庫本を読みながらの会話だ――こっち向けよ。癪だが、ボブカットの艶のある黒髪とシンプルな黒縁眼鏡が本人のオーラと合わさり文学少女の見本みたいだった。あ、カバーの所為でタイトルが判らないから後で教えてもらおう。
「憲法って読み物だったんですね……」
そうサチの横で苦笑いするのはこの場の唯一にして最大の癒し系体現者は三咲可憐。ほんわかオーラをものにする彼女は細さと柔らかさを両立し、栗色の髪をおさげにしているその姿は小動物感を演出している。そして何より電車と共に揺れる哺乳類の象徴は誰の目でも豊作が見てとれる。蛇を彷彿とさせるサチとはあらゆる面で真逆なの
――――サクッ。
瞬間。
俺の顔の真横を何かが通り過ぎた。
慌ててみると栞が窓枠に刺さっていた。…………栞ってこんな殺傷性があったんですね、初めて知りました。
頬を引き攣らせて狙撃先を見ると、そこには気温が更に五度下げそうな雰囲気で読書をするサチがいた。……以後気をつけます。腕一本を覚悟し、窓枠に刺さり撓っている栞を引き抜いて彼女に手渡すと素直に受け取ってくれた。
「兄さんを超えればこんな事も出来得るのですね……」
「お前は読書愛好家を何だと思ってるんだ」
俺の隣で妹が阿呆な事を言ったのでツッコんだ。
「キレの良い手首ね……」
チカ、お前もか。ってかちょっと思考回路が脳筋じゃない?アナタ、学校では静かな委員長キャラじゃなかったっけ?
尋ねるようにミサの方を向くと、彼女は困ったように小首を傾け、それから笑いかけてきた。何かが回復した気がした。
その間も、電車はカタコトと目的の海に次第に近づいているのだった。
……この時は地獄が待っているだなんて、終ぞ思いつかなかった。
水着回だと思った?残念、企画回でした!……ホントごめんなさい。
次、次こそは!!だから見捨てないで!!!(必死)
お読みいただきありがとうございました。
※誤字脱字表現の誤り等がありましたら感想にてご連絡ください。
随時修正致します。
引き続き、『おさどう』をよろしくお願い致します。