第07話 きしょう・b
皆様のお住まいになられる地域は大丈夫でしょうか?
自分の方は外出した際、激しく叩き付けられた雨粒で視界の確保もままなりませんでした。しかし避難とかそういった異常事態になっていないので、なんとか。
改めて皆様のご無事を祈りつつ、ぐだぐだBパートへ突入なう。
あ、昨日書き忘れた部分は<かいそう・c(3)>に加筆しました。
宜しければご一緒にどうぞ。
思わず俯いて目頭を押さえて揉んでいると、希が下からひょいっと覗き込んで来た。
「くんかくんか……くんかくんかすーはーすーはー」
「をいコラ」
「――はっ」
突如として自分の周囲をクルクル回ったかと思うと、回りながら狂ったように匂いを嗅ぎ始めた。いくらこの妹としても奇行過ぎたのでゴスッと頭に手刀を叩き込むと、すぐに我に変える声が聞こえた。
「犬かお前は」
「わんわん」
「お手」
「わん」
「うん、お前はやっぱりそういうキャラだよな。…………はぁ」
頭痛が増すばかりだった。
と、
「そうそう、服からサチ姉さんの匂いがします」
「――」
ドキ――――ンッ!!
痛いくらいに脈打った心臓が、もう一度口から飛び出しそうだった。
「な、なんじぇそう思うのかにゃ希しゃんや」
ダラダラと、寝てる間にほとんどかかなかった汗が塞き止められていたのを解放するようにドッと噴き出すのを自覚しながら、俺は口も碌に回らないままとぼけようとして、失敗した。
「しょうですにぇ」
推理ドラマの探偵役のように顎を擦りながら自分をからかうような言い方で呟いて考察に耽る。味噌汁は大丈夫なのかよ。
「ま、まさか兄さん……っ」
「な、なんだよ」
「ひょっとして……」
「な……、」
「――サチ姉さんと一緒に寝たのですか?」
「――な、何もしてないから!!」
「……ほへ?」
「……ん?」
ほとんど同時のタイミングだった。
なぜか俺は自首していた。せめてものと無罪の証明をしていた。
物凄くグレーな判定ではある気がしなくもないが、何もなかったったら何もなかったのだった。あったらケダモノ過ぎるぞ俺。軽く想像しただけでそんな俺を自分自身でドン引きした。
「えっと……兄さん?」
「ちょっと待て、待とうかまずその俺に向けてるにしては如何わしい目はなんだ」
あまり表情の変化が少ない希の瞳に滅茶苦茶可哀想な、同情よりも更に哀しい憐憫の感情が乗せられていた。
「兄さんって、不能なんです?」
「なぜその話題へ行く」
予め言っておくが、俺は決して不能ではない。お脳味噌が残念で無能なのは薄々自覚はしているものの、それでもまだ生物としての機能くらいは保持している……筈、だ。
「あんな魅力的な白い肌を間近で見てて……、あんな静かな吐息にくすぐられて…………、それでもナニ一つしないだなんて、生物的にアウトな部類ですよ兄さん」
「お前は一度、理性という単語を辞書から引っ張って来い」
再び、希のピンク色に染まり切っている思考回路が詰まった頭の脳天にチヨップをお見舞いする。あうーとか言って頭を押さえてさすさす撫でているが、俺は慈悲は与えぬの精神で冷ややかな視線を送る。
「……それは、ないだろ」
「いたたたた……え、なんです? 兄さん」
「いや、なんでもない」
確かに同じベッドで寝て、少しも邪な思いを抱かなかったかと問われればそんな事は絶対なく。健やかに眠る姿はやっぱり魅力的で、会話が終わった後サチの寝息が聞こえ始めてもしばらく俺は眠りにつけなかったのだから。
だからこそ。
そこで欲求に従ってしまうのは違うと思うのだ。
大切だから。
かけがえのない存在だから。
それは異なる言い方をとれば、傷つけるのが怖いという事だった。
だから誤魔化すし、嘘をついているかのような言動をとる。
果たしてこの考えは間違っているのだろうか、どこまでの『我慢』が人として適量なのか――――。
俺が睡魔に誘われながら直前にぶつかった新たな疑問の壁に、この朝も阻まれていると、
「……おはようございます」
噂をすれば影。
話題の中心人物がリビングに姿を表した。
秦基博さんの新曲『Q&A』、いいゾ~。
『天空の蜂』は公開初日に絶対観に行くマン。