【番外編】08/31(3)
ヤバいよヤバいよ……。
この番外編書くのが当初以上に面白くなっちゃったよ……。
「…………アンタって、本当に」
「……はい」
「えっと……」
メールを送信してから数分後。
玄関先で美少女二人を正座で出迎える俺がいた。項垂れた頭が罪悪感でいつも以上に重たく感じ、今にも首がぽっきりと折れそうだった。ちなみに、心は既に折れていた。
見なくても、彼女達が笑顔で頬を引き攣らせているのが雰囲気で伝わって来る。雨の中傘も差さずに駆けつけてくれた二人にはかなり申し訳ない光景をお見せしているのを肌で感じる。
「本ッッッッ当に、馬鹿なんじゃないの!?」
「溜めて言うなよっ!!」
全く以ってその通り過ぎるお言葉に、身体がビクッと震える。ど真ん中ストレート過ぎて、一周回って俯けていた顔を上げてしまった。健康的で美しい細さが見てとれる腰に両手を当てたチカの姿はお姉さんのようだった。
一方、
「あはは……。でもとおるクン、流石に全然やってないのはマズイよ……」
「うぐふっ!?」
いつも通りの癒されるようなオーラを纏ったミサに苦笑され、ものの見事に弱点を突かれ、俺は上げた顔に更なるストレートをお見舞いされた気分を味わう事となった。仰け反って後ろに倒れそうになるのをなんとか抑える。
「がっ……、ごほっ……」
「なんでミサに言われた方のがダメージ多いのよ!?」
「お、お前も言われれば理解する筈だ……」
胃を抉って来るような感覚を味わえるぞ。ついゾクゾクし――コホン。一瞬あっちの世界の住人へと目覚めそうになったが、それはおいといて。
大天使三咲様にそんな顔をさせると、人間として失格したような気がして、腹にゴリゴリとバスケットボールを押し付けられたような苦しい罪悪感が割増しされる。
「ま、まぁ……、うん! 今から頑張れば終わるよ!」
「……それもそうね」
生命の大粉塵のような天使の一声に、顔を二人に向け直す。他人事とはいえ腐っても幼馴染みに一人がこうも絶望的な状況に追いやられてるのを見てか、
「ま、終わればだけど」
「……本当に終わる配分と量なのか?」
チカの不穏過ぎる発言と入れ替わるように、俺は恐る恐る尋ねた。
「…………た、多分」
結果、ミサの髪と同じ綺麗な栗色の瞳が滅茶苦茶泳いでいたのを視た。
視てしまった。
「ミサぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!」
「だからなんでミサの発言はしっかりと受け取るのよ!?」
状況は俺の思い浮かべる最低の、更にその下のラインを潜り抜けられるようなレベルの絶望っぷりらしい。もう形振りは構ってられなかった。
ダンッ!! と正座の姿勢のまま俺は床に力強く手を付いて、額をぶつけるかのように頭を下げた。
いわゆる、土下座だった。
「ぜ、是非ともこんな俺の課題消化を……て、手伝って下さい……っ!」
情けないのは分かっている。
でも。
それでも。
あれだけ楽しかった夏休みを、『遊んでいたせいで宿題終わりませんでした』なんてつまらない結末にしたくはなかったのだ。
「な、情けなさ過ぎる……サっちゃんが見たらなんて言うのかしらね」
「そっ、そんな頭下げなくても手伝うって!」
「……これが二人の女子力、いや包容力の差ですね」
「余計なお世話よ! あと女子力言わないで!!」
思い思い彼女達らしい台詞を言いつつも、
「ま、終わらせたのは随分前だから忘れちゃった部分もあるかもしれないけど」
「教えたりとかは下手かもしれないけど、手伝える事は手伝うよ!」
「学年は違いますが、兄さんの力になれそうな部分は参加します」
「すまん……恩に着る。ありがとう」
手を差し伸べてくれる温かさに、涙が出そうになる。
涙腺の崩壊と共に溢れ出しそうな淡くも大切な感情を堪えつつ、改めて三人の優しさに感謝した。
「ところで、肝心な夏休みの課題範囲ってのはなんでせう?」
「えっと――」
「まず数学Ⅰ・A・Ⅱのいままでやった章末問題から一〇〇題選出したプリントの問題をノートに解いて丸付けして解き直し。英語は課題用に配布された十個の長文問題が収録された冊子を冊子自体に解いて丸付け。この二つが最大の難敵な気がするわ。単純に量が多いわけだし」
「そうそうそう。あとは現代文が小論文十題を専用冊子に解答するのと、古典は次回授業分の予習として自分で現代語訳したものをノートに書いて提出、だったかな?」
「それと、社会科目と理科目は前回の外部模試の解き直しをノートに書いて提出ね。ここまで来れば比較的マシな気はするけど、手を抜いたり答え丸写しは他以上にバレやすいから、そう考えてるのだったら止した方が良いわよ」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
流石に、絶句した。
高校だから、以前の学校ならなかったし小・中学校の時みたいに量はないだろーなんて思ってたらこれだった。その倍どころの話じゃなくて、もはや意味なんてあるのかソレと首を傾げてしまうくらいの半端なさだった。
一目で尋常じゃない課題だと見抜いたよ。
というか見たくねぇ。
「うっそぉ……」
あまりにあんまりな現実に膝から崩れ落ちる。
早速持ち直した心の柱が、今度は根元から折れそうだった。
「……いや、それでもっ!!」
くわっ!! と目を見開いて床に付けていた手を固く握り締める。
そうだ、折角三人もすぐさま協力してくれると集ってくれたのだ。
彼女達の優しさに甘えたままにせず、しっかり達成させる義務が俺にはある。
「……って、まずノートの余りってあったっけ」
兎にも角にも、スタート地点から頑張らなくては。
俺の自業自得で、だからこそ大切な戦いはこうして火蓋を切ったのだった。
長い一日が、始まる。
ちなみに前回の冒頭ではチカしか出てませんでしたが、ミサは違う事をしています。