第八話 「狂騒」
学校の校舎説明回です。
……判り辛いですかね?あ、最初の台詞に関しては仕様です!そういう事にして!!
「いいか、明日は入学式だ。新入生にとっての晴れ舞台でもあり、同時に私達在校生・職員の手腕を来賓共に見せつける大事な行事だ。ここで私から言える事は一つだ。」
ここで有紀先生は咳払いをして、続けた。
「彼奴等を「割れ物」と考えろ。間違っても「腫れ物」とは考えるなよ。「割れ物」は繊細でありながら高価だ。衝撃を与えてしまうのはおろか、ガチャガチャと「品のない音」を出させてはいけない。それ故にお前達は彼奴等を――――……」
……ちょっと何言ってるか解らねぇです。だが俺と隣で既におねむな奴以外(彼女は知らん)は、
「「「「「おおーっ!!!!!!」」」」」
と合戦にでも赴くかのように吠えていた。
転校初日でよーく解りました。結構怖いです二年三組。最早ちょっとした宗教である。
という訳で午後はそんな「割れ物」(笑)な式場の作成らしい。チカ曰く、
「去年は祝われる立場だからよく解るけどこの高校の入学式は結構派手よ。その分準備も大変そうだとも思ったわ」
らしく、面倒臭さだけが漂っている気がする。何でも県教育委員や県議会・市議会のお偉いさんは勿論の事、近隣の店舗(今日行った本屋とか)の責任者も来るらしい。何故来るのか聞くと、「そりゃあ、日頃からお世話になってるし、遠くから通学して来る生徒相手には宣伝としても利用出来るから」とか。……わーお、商魂逞しい事で。褒めてないぞ。
「あ、そうそう、さっき言ったパン屋だけどね、ウチの購買にも出張して来てるわよ。お陰様で購買はいつも込んでいるわね」
「え?よく県立高校に売り込めた…………な、」
やる気がダダ下がりになった準備からこの学校の購買の話に移って、俺はある事を忘れていた事に気付いた。超しまったぁ…………。そうだよな午後があるんだよなそうだよなうんうん。
いきなり黙ったからか、喋ってるチカにも俺の異変が伝わったようで、
「流石に私もそこまでは知ら……アンタどうしたのよ?」
眉を顰めてそう尋ねて来た。
やべ。
「今日弁当持って来てねぇわ……」
チャイムが鳴ると同時に廊下を駆けて行った野郎共の光景を思い出して、俺はそう呟いた。
# # #
この学校は渡り廊下を挟み南北で二つの校舎に分かれている。『エ』の形と言えば想像つくだろうか。南校舎に全三学年七クラスの通常教室、特別教室や職員室は全部北校舎といった具合だ。両校舎とも各階には端の二ヶ所に階段が設けられており、例えば南校舎の場合は各学年の一組と七組の教室の前である。なので正面に渡り廊下のある四組が一番特別教室に移動しやすかったりする。
その事から計三通りの選択肢が浮かび、その内俺は人が少ないと思われる渡り廊下を使うものを選択した。二階の窓から飛び降りても大丈夫そうなのだが初日でこれ以上は怒られたくはないので止めた。俺に言葉責めを受ける趣味はない。
……転校初日でこんなに校舎に詳しいのは朝一人で職員室を探していたからだったりする。。職員室は北校舎二階なのに南校舎の昇降口の案内板を前に戸惑っていたのは記憶に新しい。
閑話休題。
俺はチカとの会話を切り上げさっさと向かう事にした。
「あ、べ別に嫌じゃなければ――ってちょっとちょっと!何処行くのよ!?」
「あ?購買に決まってんだろ」
「今からじゃ間に合わないわよ!!それより――――」
「行ってみなきゃ判らねぇだろ。んじゃ」
「私が――って、ちょ、」
「続きは午後なー!」
そう言って俺は超全力でダッシュした。幸い足には多少の自信がある。寧ろ運動分野はコレと握力と中学の部活で経験したバレーボールしか誇る事がなかったりする。後ろから「人の話を聞けぇえええええええええええええええ!!!!!!」なんてチカの声がどんどん遠ざかってゆくのを感じた。だが今の俺の優先順位は昼飯、たかが昼飯、されど昼飯なのだ。人様の迷惑にならない程度には形振りは構っていられない。
本来は教師が出入りする前のドアからF1よろしくのロケットスタートをかます。アニメだったら土埃と集中線、それから飛行機が飛び立つ効果音が挿入されている筈だ。近くに女子とかいたらスカートが捲れちゃいそうでさえある。というか誰かのスカートが視界の端で捲れ「きゃあっ!!?」た気がしたのではなく本当に捲れちゃってんじゃん!白とか可愛らしいですねありがとう!!
慌てて俺は近くの女生徒Aに謝った。
「わ、悪い!――――え?」
「ぇ、ぁ、いえ、――――へ?」
あぁ、そう言えば言ってなかった。
「ととととトール君!!?」
彼女――三咲可憐はそう言って、「――――……ふぅ」倒れ、へ?
えぇぇぇぇぇええええええええええ!!!?
# # #
俺はミサが倒れ、廊下の硬い床に頭をぶつけそうになる寸でのところで抱きとめた。見当違いにも周囲に人がいなくて良かったと思った。
俺人と会って気絶されたの初めてだよ……そうそうあってたまるか。
なので俺は少ない筋力で通称「お姫様抱っこ」を敢行した。いやだってそれ以外ちゃんと運べそうな発想が思い浮かばなかったし。本当に人いなくてよかった。外出るの購買組位っぽいしね。
「取り敢えず保健室だな……」
昼飯を全力疾走数秒で諦め、ミサを運ぶ事にした。
余談だが、保健室(北校舎二階)に行く途中で階段を見やると行列が溢れているのか人が並んでいたので、どっちみち今日の俺は昼飯なし確定だったりしていた。同じ階にある事務室の人どうすんだろうなぁ……。
心の中でそっと涙を流している内に保健室に着いた。何かココだけリフォームされてる感がありありと滲み出ていた。よく解らないが早くも嫌な予感が俺の胃を締め付けてくる。意を決し開けようとして、両手が塞がっている事を思い出した。
「すみませーん」
言うと「はぁーい、今行くわねぇー」と遠くからドア越しの返事が聞こえて来た。何か若さ溢れるソプラノボイスだった。前の学校じゃあデカいホクロがある湯〇婆だったからかなり嬉しい。スリッパの足音がパタパタと近づいて来て、
ドアが開いた。
「あらぁ、久し振りぃ~」
若いも何も頬に手を当てて微笑むのは他の誰でもない、友花さんだった。
……気絶しているミサが心底羨ましかった。
# # #
今の友花さんは白衣を羽織って俺と向き合っていた。
「聞いたわよぉ~。とおるクン今日遅刻しちゃったんですってね~」
何処から得たよその情報。出回るの早過ぎぃ!
「……その前に一つ質問しても?」
「どうぞぉ~」
「何故この学校に白衣を着ていらっしゃるんですかね?」
「いちゃ駄目かしらぁ~?」
「いえそういう事ではなくてですよ?唯――――」
アナタは大学生だったのではないのですか!?
「あぁ、それはアレよぉ~。教育実習みたいなカンジ?私の通ってる看護学校は四年生の一年間は実際の職場で体験学習を行えるのよぉ~。その分お給料も出るしココなら教育免許も取れるからねぇ~、この職場に選ばれるのに私頑張ったんだからぁ~」
「……凄いんですね、友花さん」
何か、尊敬してしまった。この人ちゃんと将来の事考えて生きている部分も有ったんだなぁ……。スイマセン昨日の一件で人をぬるっとからかう魔女だとばかり考えてましたよ。正直見直した。
だが、
「と・こ・ろ・でぇ~」
ココで終わらないのが友花さんクオリティー。
「午前中は智香と屋上に行ったんですってねぇ~。それがどうして今は三咲ちゃんをお姫様抱っこして保健室に来ているのかしらねぇ~?」
ニヤニヤと微笑む姿は天使にも思えるが、俺には解る。コレは魔女のそれだ。妖艶さも交わり〇ディアを彷彿とさせてくれる。
そこからは俺への尋問が開始された。
……詳細は伏せておく。
有紀先生は屈指の残念キャラ。対して屈指の駄目キャラはぶっちぎりで希。
そして主人公は翌日筋肉痛に。……幾ら軽かろうと人を運ぶのはキツイと思うんですよね。うーん、ロマンがない。
お読みいただきありがとうございました。
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随時修正致します。
引き続き、『おさどう』をよろしくお願い致します。