第06話 かいそう・c(3)
ヤバいヤバい超ヤバい。
時間が無さ過ぎるので超短くはなりますが取り敢えず毎日更新だけは死守していくスタイル。
余裕ができたらあとで加筆するかも。
「――お、寝坊か?」
「そういうつもりじゃなかったんだけどね……」
あの修羅場とも断頭台とも言える教室から解放された俺がようやっと体育館内に設置された更衣室に到着した頃には、既にもうみんな着替えを済ませていたのだった。
とはいえ怪訝な視線で観られるわけでもなく、どころか心配の心遣いが滲み出る対応をみんなにされて、心がほっこりした。
「まぁ引っ越して来たばかりじゃ環境の変化で色々疲れる事もあるだろうし、仕方ない話だって」
「あぁ、すまん……」
遅刻の俺にも優しくするクラスメイト男子達の気遣いは有り難かった。
……だからこそ本当に申し訳ないと、罪悪感で捩じ切れそうになっている腹を押さえて呻くように謝罪した。
「ん?」と疑問符を浮かべてなんの事やらさっぱりな彼らの表情に、更に苦しさに卒倒しそうになった。
普段の授業なら呆気なく睡魔に誘われていただろうぽかぽか陽気の中で、体力測定は開始された。
丸々一日を賭して開かれるこれは以前の高校と同じく全校生徒が対象なのだが、この学校ではそうとは思えない程に静かに執り行われる事となった。なにせ生徒全員のパラメータを測らなくてはいけないのだから、機械的に回転されていくのは必然なのかもしれない。
例えば。俺のクラスの男子は同学年の二クラスの男子と合同で、まず体育館での測定の後に球技場、それから午後にグラウンドにて――といった予定となっている。あまり熱の篭もらない内に室内の競技を済ませられるのは僥倖だと思う。
ちなみに、俺は毎年この体力測定ではだいたい平均のスコアを出している。持久力の分野のシャトルランがほんの僅かだけグラフに尖りを出してくれる程度だ。別に運動は嫌いではないが、だからといって身体を使うのが楽しみな性格ではない。どちらかと言えば部屋でまったりと読書でもしたい俺からすれば、「このくらいで良いかな」と思えるスコアだ。
そして。
「――――っ!」
ビ――――ッ、と電子的なブザーの音が球技場に鳴り響く。
シャトルランを除いた室内競技の最後として、反復横跳びが今まさに終了した戸頃だった。記録を告げに担当の教師へ結果を報告するついでにチラリとその手元の紙を見たが、やはり平均程度の記録だった。若干の汗を持参したタオルで拭くと、少し不快だった湿気が幾らかは消えたように感じた。
「はぁぁぁぁぁ……」
「――とおるクン?」
「?」
午前の部が終了し、各自解散の形になって当たり前のように混雑し始めた廊下に若干の鬱陶しさを感じながら額を拭いていると、後ろから最近良く聞く声が耳に入った。
「お、ミサ――」
「お疲れ様ー」
振り返って、思わず息を呑んだ。
視線の先に、見た事もない美少女が降臨していた。周囲の雑踏がどこか隔絶された気になってしまうくらいに、意識が全て一人の女の子へと吸われていく。
「? どうかしたかな?」
「あ、えと……」
どちら様ですか、とか聞く必要はない。目の前の、同級生に見られる藍色にい白のラインが入った長袖のジャージを着込んでいる女子生徒は間違いなくミサだ。なのに。
「あ、髪形……」
「ああ、流石に運動する時はと思ってほどいちゃった。いやー私運動苦手だから大変だったよー」
いつものおさげ仕様ではなく、ほどいてサラリと伸ばされた栗色の鮮やかな髪は時が止まったように時間を忘れて見るのに没頭してしまう威力があった。見蕩れてしまうのだ。
「とおるクンはどうだったの?」
「あ、ああ。俺は平均くらいかな」
印象がガラリと変貌させている当の本人はそんな俺の視線を気にもせず、普段通りに話し掛けてくれる。意識がその姿に奪われつつも適当な返事をしながら、改めてなぜこの学校でミサがあんなにも神格化されつつある程の人気を博しているのか、その一端を窺い知った気分になった。今も視界の端々で立ち止まって見る人々の姿が目に入る。
「良いなー、私も平均とは言わないけどもうちょっとは……」
「流石にそれ以上はまずいって」
「どういう事!?」
微笑んでそんな事を言い出したら本当に天が二物以上を与えそうなので、ちょっと茶々を入れる。それはそれで俺に天罰が訪れそうな気はするが。
そんな風に下らない事を考えていた時だった。
「……あれ?」
ふと、目をパチクリしたミサが首を傾げながら尋ねてきた。
「とおるクン、その傷どうしたの?」
――――これが。
こんな些細な疑問が発端になるなんて。
この時の俺は少しも思っちゃいなかった。
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いつもの事でしたね、はい。




