零【ゼロ】話 道のはじまり
申し訳ありません! 私事が急遽入ってしまい、投稿が遅れました!
しかも、昨日の話にちょろっと追加すべき内容をしそびれたので、そちら優先しちゃいました><;
これは後日談だろうか。
あるいは一つの区切り、オチなのだろうか。
灼けそうな日差しに晒される中、僕は目を閉じて静かに手を合わせる。
けたましい蝉の鳴き声や、賑わうどこかの祭囃子が耳朶を打つ。
手向けとして持参した花の柔らかな香りが鼻腔を擽り、あの茜色に染まる夏を思い出させる。
「――さ、行きましょうか」
「……だな」
屈んでいた身体を直立させて、僕は隣の妻――鞠に笑顔を向ける。日差しと、それに勝るとも劣らない彼女の返すその朗らかな表情に、眩しそうに眼を細めてしまう。最近じゃすっかりキモいと息子に罵られるようになった僕の笑顔だが、妻にはなんとか通じるみたいだった。
……一番怖いのは娘のあのジト目なのだが。
や、やっぱり変なのかな僕の笑顔って?
「そんな事はないと思いますよ」
「あれ、顔に出てたかい?」
「それはもうしっかりと」
「そ、そんなにだったかい!?」
そこまで解りやすいものだったかと動揺を隠せない僕だったが、それ以上にこの地に来ると思う事が多々あった。
変わった事があった。
例えば、僕と鞠が結婚している事。
あれからも何度か騒動があったものの、無事というかめでたく鞠と結ばれる事ができ、今では息子と娘の二人の子どもを授かっている。
例えば、あの時の書店の店長の事。
より厳つい顔つきになり、より頑固そうに見えるあの店長。たが、あの事故以降からは書店の目の前に位置するここに命日やこういった時期に必ず来ては花束を置き、静かに祈りを捧げているようだ。
当時じゃ僕ら自身ですら想像もつかないだろう。あの事故の後から、色々な事がガラリと変貌を遂げていた。
世界から彼女が消えただけでこんなに違うものなのかと、この場所に来る度に改めて影響力の大きさを実感する。
失ったものなんて何一つない――そんな事は僕には言えないし、思う事すらできない。それは僕が未熟だからかもしれないし、いまだ千尋の事を忘れられないからなのかもしれない。
けれど、
「……昭さん?」
「いや――」
今、隣には鞠がいる。家に帰れば二人の子どもがいる。
喪ってから始まった何かは、確実に新しい道を歩んでいた。
僕らは続いて行く。
またどこかで、誰かの一〇一年後が早く来てしまっても。
いつだって僕らは新しい一歩を踏み出せる。
明日こそ本編に……。