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幼馴染同盟 ~Are you BEST FRIENDs?~  作者: アオハル
02.Cold-en weaks _Do you know?_
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零【ゼロ】話 どこから、この話を始めよう

 機能少しお話したバックアップ機能ですが、そのおかげでストレスフリーに執筆ができるように。

 よろしければ、少々長めなあとがきにもお付き合い下されば幸いです。


 『当たり前』。

 この言葉ほど甘美で、同時に恐ろしいものはないだろう。そう僕は思う。

 『当たり前』は目に見えない。

 『当たり前』はいつもそこにある。

 『当たり前』は喜べない。

 『当たり前』は失って初めて有難みが解る。

 いつの間にか蔓延っていて、気付けば感覚が麻痺を起こす。アルコールのように酩酊させるその誘惑に打ち克つ事はそう容易い事ではない。

 少なくとも、僕には不可能だった。

 だから、こうなった――――。



「…………………………、――――」

 なんだろう。

 何かやけに騒がしい気がする。

「――――、――」

 ……うるさいな。

 もう少し待ってくれよ――。

「――昭さんっ!!」

「――――っ!」

 はっ、と目を覚まし、その飛び起きた勢いのまま身体を起こす。

 誰の声だ、と疑問を浮かべるまでもなく、

「…………鞠」

「昭さん……」

 どうしてここに? とか、ここはどこ? とか、なんでそんな他人行儀なんだ? とか、色々と尋ねたい事はいっぱいあった筈なのに。

 鞠のその泣き腫らした表情を見た途端、僕の全てが凍り付いた気がした。

 その顔が目に入ってしまい、僕の腹に気持ちの悪い鈍痛がゴロゴロと奔った。いやな、これ以上は何も知りたくないような不吉な予感がしたのだ。

「どうした……?」

 よせ。訊くな。止めろって。もういいだろ。

 様々な言葉で頭の片隅が警告しているのに、そのたった一言がどうしても呑み込めず、留まらずに僕の口から吐き出されてしまった。本当に吐きそうだった。

 果たして、その予感は。

「あのね……、あのね――――」

 最悪にも、的中してしまった。

 本当に最悪という単語が相応しいくらいの、いやな気分が口の中で鉄くさい苦味となって拡がった。



 梅雨も終わったのに、どこからか雨の音と雨特有の香りが鼻を擽っていた。



   # # #



 概要を簡単に言えば、僕達二人のいた歩道へと自動車が突っ込んできたらしい。

 発見時は僕が彼女を庇うように倒れてたらしいのだが、現場はコンクリートの地面だったので、彼女の場合は出血の量が酷かったらしい。僕も出血が酷く、事が起きてから一週間経過してようやく覚醒したらしい。

 運転手もその場で意識を失っていたらしい。

 なんでも、突然意識を失う持病を患っていたらしく、運転手本人に過失はないとかどうとか。

 らしい。らしい。らしい。らしい。らしい。

 そんな話が、どこか遠い場所から他人事のように鼓膜を震わせるばかりだった。

 脳が理解を拒んでいた。そんな事はないって。

 また学校に行けば当たり前のように隣の席に彼女がいて、当たり前のように下らない話題を共有して、当たり前のように悪戯めいた笑顔が見れるのだと。

 だが。



 退院して間もなく、登校した学校のそのいつもの席に。

 彼女の姿はなく、ただひとつささやかに花瓶が置いてあっただけだった。



「――――ぁ、」

 気付けば、学校から飛び出していた。

 怯えるように全力で疾走した僕は、何かを譫言うわごとのように呟きながら必死に汗を流して歩を進めた。

 そして。

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」

 あの本屋が目と鼻の先にある歩道。そこに、それ(・・)はあった。

 それ(・・)はなんの変哲もなく、誰もが一度は目にするものだった。

 それ(・・)は場所と状況さえ違ければ、めでたくも感じる事もあれば苦い思いを感じる事もあるものだった。

 それ(・・)は、――――花束だった。

 歩道の片隅に、静かに花束それが置いてあったのが見えた。

 見えてしまった。

「――ぁ、ああ……」

 それを視認した瞬間、全身から全ての力が消失してしまった。猛暑で熱されたアスファルトなど気にも留めずに、膝から崩れ落ちて、

「ぁぁぁあああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 ただ、絶叫した。

 気付いた時には全てが遅かった。

 永遠に錯覚していた『当たり前』が、ガラガラと音を立てて為すすべもなく崩れ落ちた――そんな気がした。



 その日を境に。

 それからというもの、僕は学校に行かなくなった。夏休みまで残り数週間と浮つかせていた気分は深く暗い奈落の底へと落ちてしまった。両親や妹の呼び掛けにも応じず、ただじっと部屋に篭もるようになってしまっていた。

「…………、」

 時々だが家族が誰もいない中、家の受話機が音を鳴る。そのうるささに潜っていた布団を掴む力が増す。棘のように引っかかりを覚える何かが、僕を部屋という硬い殻に閉じ込めさせた。

 ぎゅっと手と同じように力を込めて眼を瞑ってみれば、あの笑顔が浮かび上がった。心に刺さった棘に重みと鋭さを増した気がした。そういう時には決まって胃がチクチクと痛みを訴え、吐き気が込み上げるのだ。

 そんな、単調な毎日がただただ続いた。

 千尋の事、鞠の事。

 学校の事、家族の事。

 全てを放り投げ、果ては自分の事すら放り投げた。

 僕のせいだ――何度痛感しても、何度責め立ててもあの時間に戻れるわけでも、一切合財が元通りになるわけでもなく。ただただぐずぐずと、地面に落ちた果実がゆっくりと腐り朽ちていくように、僕は崩れていったのだった。



 そうして、あれからずっとしてるように、僕はその残像が映る瞼を閉じて意識をシャットダウンさせて眠りにつこうとした頃だった。

 キィ――――と。

 固く閉ざされていた扉が、開いたような気がした。

 この雛形とも言える話を没にした理由ですが、ひとえに自分が「女の子が不幸になる話」を書きたくなかったからです。

 小説や漫画を読む時、アニメや映画を視聴する際、ヒロインが喪われるとどうしてもそこで手を止めてしまう。それが、幼稚な言葉で綴られた拙作のヒロイン達にも感じてしまう部分がありまして。

 正直書いていて一番苦しかった部分でもありましたが、同時に折角書き出したものは放出したいという相反する思いに駆られ、こうして投稿する形となりました。

 次回でこの雛形も終わり、彼――明日葉昭が待ち受ける現在までへと繋がるかと思います。

 どうか次回も、そしてこの作品全体も応援して読んで下されば。

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