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幼馴染同盟 ~Are you BEST FRIENDs?~  作者: アオハル
02.Cold-en weaks _Do you know?_
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零【ゼロ】話 どこから、この話を始めよう

 久々の寝坊ニキ。

 13時と言ったのに……。

 時間とPCフリーズには勝てなかったよ……。



 沈む夕日に照らされながら、僕ら三人は帰路についていた。

 夏特有の、強烈な日差しとアスファルトから陽炎のように立ち上る熱に負けじと僕らは歩を進める。結局二人は帰り道にある行きつけの本屋にまで付き合ってくれるようだった。それは優しさか、果たして……。

「――つくづくあきらも業が深いよなぁ」

「は?」

「だって私達二人と一緒に登下校して遊んでるんだぜ? 周囲の羨まけしからんと言いたげな視線に流石の昭だって気付いたろ?」

 流石のというフレーズに眉を顰めるが、それよりも先に突っ込むべきポイントがあった。隣で悪戯めいていながらどこか爽やかな笑みを浮かべる笠原かさはら千尋ちひろに俺は呆れたような眼差しを送る。

「……あれはどう見てもそういう目じゃないだろ」

 どう捉えてもあの視線は自分が先程見た取り巻きに対する視線と似たようなものだった。

 ああ、またやってる――みたいな他人事のような感想だ。

「あははははっ! そうとも言うな」

「笑うな。認めるな」

「――でもあなた、事実奴隷根性というか……そういう部分あるでしょう?」

「そんな察したかのように言われてもな」

 それは察したのではなく、都合の良い解釈をしたっていうヤツだ。

 ついさっき千尋に送っていた眼差しをそちらにも送りつつ返答すると、隣を歩いてた宇都宮うつのみやまりはきょとんとした顔のまま、首をこてんと傾ける。

「え?」

「え?」

「もしかして……」

「もしかして?」

「もしかして……自分で気付いていなかったのかしら?」

「だから違うって言ってるだろ」

「ご、ごめんなさい……、てっきり気付いてたものだと……」

「だから違うって」

「私が気付かせた事によって覚醒を速めてしまったのかも……」

「それもないから」

「……まぁ、今はそういう事にしておきますね」

「だからその察したかのような不敵な笑みはやめろ」

「そうだったのか……同じ幼馴染みとして気付いてやれなくて、ごめんな?」

「お前も便乗止めろ。先行くぞ」

「とか言って先に行かないのが奴隷根性と言いますか……」

「だな。お前そういう趣味だったんだな」

「……二人共本当に置いてくぞ」



 僕は、住宅街の片隅で生まれた。

 片隅なだけに遊び相手はおろか近所付き合いというヤツも限られた相手にしか許されないような、そんな住宅街の中でも極めて人の少ない地域で生まれ、僕は育った。

 そんな、限られた近所付き合いの中で、生まれたばかりの僕は二人の幼馴染みと運命的な出会いを果たす。この二人がいなければ、僕――『明日葉あしたばあきら』という一人格は全く別の人格、全く別の人生を歩んでいた事だろう。そのくらいの存在になる二人に、僕は出会ったのだ。

 笠原かさはら千尋ちひろ

 宇都宮うつのみやまり

 どちらも幼さが合わさってとても可愛らしかった女の子二人と当時では珍しく異性の知り合いではあるが、そんなしがらみは僕らの頭の中にはなかった。関係なかったのだ。年頃らしくおままごとに興じる時もあれば、可愛らしい洋服を泥だらけにしてでも鬼ごっこをしていたりする時もあって、よく三人でまとめて親全員から説教されたり心配されたりしていた。

 保育園も一緒。

 小学校も一緒。

 クラスも一緒。

 登下校も一緒。

 中学校も一緒。

 部活動も一緒。

 委員会も一緒。

 異性という事、とりわけ彼女達が美人だった事もあって、当然だと言わんばかりに単純な冷やかしや下らないからかいが多々あった。僕らには――少なくとも僕には全く『それら』の発想はなかった。

 だって、僕にとって彼女達二人は――――家族のような存在だったから。

 その想いは、今も変わらない。

 そして。

 いくつかのハードル――例えば今では想像も及ばないほどに壊滅的だった(というか本人がやっていなかっただけなのだが)千尋の成績の底上げとか、自身の緊張する癖を矯正するとかして、僕らはとうとう高校も同じ学び舎へと一緒に入学する事ができたのだった。



「――しっかし、小説ねぇ」

 最近ではよく耳にする邦楽のサビを口笛で吹いていた千尋が、ふとそんな事を言い出した。

「いいだろ別に。本を読むのくらい」

「いんや、別に否定はしてないさね」

 ただ、とそこで一旦言葉を区切ると、彼女は前に広がる茜色に染まった帰り道を見ていた顔をこちらに向けて、ニヤリと笑った。

「その分をもうちょい私達と遊ぶ方へと回してくれてもいいんだがなぁ?」

「……それ言い出したら金がいくらあっても足りねぇよ」

「あら、あらあら。それは熱烈な発言と受け取っても?」

「なんの話だよ」

「「奴隷根性の話」」

「そんな部分で意見を一致させてんじゃねぇよ」

 そんな馬鹿みたいに下らない会話を繰り広げつつ、僕らは書店へと足を運んでゆく。

「…………、」

 目が眩むような紅い夕陽に、僕は手を翳す。

 認めたくはないが、中々悪くない日常でもあった。



「なぁに笑ってるんだよ、昭」

「やっぱり……」

「違うから。絶対違うから」

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