零【ゼロ】話 ~Introduction・b~
早速短めになってるのは許してちょ><;
次回からこの数倍の文字数でお送りする(予定)ですから!
(※あ、あくまで予定です)
空気を切る音が窓を震わせる。それと一緒に外から何かしらの音が耳朶を打つ。
例えばそれはどこかで鳴る賑やかな祭囃子。
例えばそれは歩道を歩く家族連れの笑い声。
まるでBGMのようにそれは車内まで流れ込んできて、季節感とどこか高揚させられる気分を生じさせてくれる。窓越しにまで差し込む強い日差しとコンクリートから立ち上る陽炎、街路樹の輝かしいばかりの緑に目を細めながら僕は安全運転を心掛ける。
「……僕は毎年この道を走って、ようやっと夏だなぁって実感するんだよね」
「あら奇遇。私もそう思いますよ」
誰ともなしに呟いた独り言を助手席から拾ってくれる声が耳に入る。いつだって妻の声は聴きやすく、どこか爽やかさと心地よさ、それと安心感を与えてくれる。
「そういや、透や希の昼食は心配ない……かな」
「ええ。最近じゃ献立の大半を希が担当してますし、それに透だって作れますから。大丈夫じゃないかしら」
かしら? と首を傾げつつ微笑んでいるであろう妻からは、裏腹に子ども達に絶対の自信を持って言っている。僕も同意見だ。
子どもはいつだって勝手に成長する。「これはやっちゃダメ」「これはやるべき」……そんな事を教えなくても本能から、実体験から学んでいく。昔は多忙だった僕は妻は勿論、息子と娘に常々助けられっぱなしだった。そして彼らが嬉しい時、寂しい時に僕は中々一緒にいてやれなかった。当時は仕事――家庭をそれで支えようと必死で、だからこそそれい目が眩んでしまったのかもしれない。
僕は透と希に一体何を伝えられたろうか――毎年この道を走る度に、不毛なこの思いが首をもたげる。
「……やっぱり親ってのは大変だね」
「そうかしら?」
「ん、君は違うのかい?」
「ええ。――――だって好きですから」
あっさりと。
どこまでもシンプルな回答を、妻は気持ち良く言ってくれる。
そういう部分に、僕は惹かれたのだ。
彼女はいつだって僕が立ち止まってしまうハードルを軽々と飛び越えて、向こうから背中を押すように声援を投げかけてくれる。
「……君は凄いね」
そう、改めて思った。
「勿論あなたの事も好きですよ」
「…………君は本当に凄いね」
ちょっと、そのストレートさに年甲斐もなく照れてしまった。
「僕もだよ」
「あらまぁ。ふふっ」
そこ左折ですよ、と言われて慌てて僕はウインカーを立てて曲がった。
今から向かうのは。
僕達の始まりの場所でもあり、同時に始まりの人との再会のためでもある。
ゼロからのスタート地点だった。
今回書こうとしていますのはこの『幼馴染同盟』の雛形に相当するプロットに肉付けをしたようなものです。本来はこちらを短編で掲載するつもりでした。それがいつの間にやらあれがいいこうがいい……でこんなカオスな長編(?)になり、1周年を迎えたり、100話を超えたり。そんな中でふと書きたくなったり。
どんどん本編が先送りされてるような感じですが、こちらも読んでいただけたら――愉しんでいただけたら幸いです。