017文字の練習
「君の話すことは、全部本に書いてある。君から学ぶことは何もない」
そう言った偉人がいた。だが、この世界の現実は無情にも本さえ殆ど存在しない。文字は上位層の特権。
僕は本から学ぶことは出来ないと悟った。
この五年の間で書物を殆ど見たことがないのだ。
全て人の口から教わるしかないのか……
前世の僕は結構な読書家だったので軽く絶望する。が、すぐに持ち直す。
ないなら作れば良い!
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そんなわけで僕は長老様の屋敷へとやってきた。
長老様は予定より大幅に遅れながらも一週間前に評議院帰還していた。
貴重ではあるが紙はある、と思う。あって欲しい……
呼び鈴すらない木製の扉の前で「長老様!」と呼ぶ。
重々しく扉が開くと、そこには緑髪の初老のエルフの姿。
「良く来たの。じゃが、まだ勉学の時間ではないぞ?」
長老様は評議院から帰還したのは一週間ほど前だ。
「いえ、勉学のことで参ったわけではありませんの。少々、紙を分けて頂きたいの」
月日が過ぎると同時に言動が女の子らしくなっている。惜しむらくは身体が相応に発達していないところか……
「紙?そうじゃの~……何に使うのじゃ?」
「文字の練習をしようかと……」
「ほお……待て、文字じゃと!?」
長老様は驚愕の声を上げる。
「エルフ文字や共通文字は教えていないはずじゃ。ましてや人間や魔族の文字など」
あ、しまった。そういえばそうだった。しかし、このまま引き下がれない。
「私は何も、既に存在している文字の練習をするわけではありません」
「は?」
長老様の目が点になる。
いや、冗談ではなくマジで。
「なければ作れば良い。文字も私が独自に作ろうと思います」
長老様は「有り得ぬ……」と虚空を見つめながら呟いた。「英雄は儂を容易く凌ぐ、か……」
やがて、小さい目線の僕を見据えて「分かった」と頷く。
何を思ったかは分からないが、とりあえず紙はもらえるらしい。
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エルフに転生してから、僕は自室というものがない。だから仕方なく居間で羽ペン―――――これも紙と一緒に借用した―――――を使い、第一言語の日本語と第二言語の英語、第三言語のフランス語、そしてエルフの言語で書き記していく。
というか、エルフの言語は前世で日本語、英語、フランス語、スペイン語、そしてロシア語を習得してから身に着けたものなので順番的には第六言語になるのかな?
しかし、ネイティブレベルの運用度で言うと、日本語の次に英語またはフランス語、またはエルフの言語が来る。
だから第二か第三、第四言語になると思う。
エルフの言語は便宜上、ラテン文字で書いた。この世界にラテン文字があるかは分からないが。
一応、フランス語、スペイン語、ロシア語のキリル文字も駆使して書いたので相手も混乱すると思う。
ただ、何より敵が混乱するのは日本語の表語文字だろう。
文字ではなく絵だと思われると思う。
『用語辞典』
エルフ文字
エルフが使う文字で、何千種類もある。
大半が暗号に使う文字で、他種族には解読が難解。
共通文字
人間と魔族を中心に使われている文字で、上流階級の者なら大半が読める。
エルフも当然、諜報活動上習得してある。50文字程度。




