006悲劇の英雄
「今日はヴィオラにエルフの歴史を聞かせたいんじゃが、どうじゃ?」
長老様はそう言ってある部屋に来た。小さな丸いテーブルが置いてある比較的狭い部屋だ。
二人では十分の広さだが。そこには長老様の弓と思しき物が壁に立てかけてあった。
長老様が床に座ると「私も聞きたいです」と言った。
ちなみに僕は抱えられたままだ。
「では教えよう。ヴィオラはエルフの英雄、ヴァイオラ様を知っておるかの?」
「名前だけは」
エルフを救ったと言われている英雄。
「それではヴァイオラ様の時代のことを語ろうかの……」
長老様は言った。
「エルフとしての存亡を懸けた時代のことを」
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幾千年前の、エルフとしても遥かに昔のことです。
エルフの村に一人の美しい少女がいました。
少女の名はヴァイオラといいました。
その時のエルフは今よりもずっと閉鎖的でした。
そこに魔族の支配下にあった人間が押し寄せて来ました。
やがてエルフは森を追われました。
ヴァイオラは幼い身体を痛めながら逃げました。
彼女は「なぜ、エルフは逃げる必要があるのだろう?」と疑問に思いました。
エルフは人間から襲撃され多くのエルフが犠牲になりました。
ヴァイオラは幼少期の半分を逃亡生活に費やすことになりました。
彼女は心を痛め、決意しました。
「私がエルフを救う」と。
その日からヴァイオラは鍛え始めました。
元から多かった魔力はどんどん増え、剣術では他の追随を許さない程の腕前になりました。
成長した彼女はエルフを一つにまとめ上げました。
エルフと同様、住むところを追われたドワーフや獣人をも一つにしました。
そして反撃を行いました。
ヴァイオラには強さがありました。
英雄の名に恥じない強さが。
彼女は人間勢を押し返し始め、人々に希望の光を与えました。
しかし、魔族とダークエルフの登場でその希望も無残に打ち砕かれました。
その時、エルフはダークエルフと魔族に強い憎しみを抱いたと言われています。
ヴァイオラは必死に戦いました。
それでも、多勢に無勢。
次第に追い詰められていきました。
彼女は殆ど休まず、日夜戦い続け、女子供の逃げる時間を稼ぎました。
ヴァイオラの最期の日、残った人々にこう叫びました。
「エルフよ!
誇りと勇気を持て!
希望を持つのだ!」
彼女は魔法銀の剣を天に向かって振り上げました。
「敵を撃退せよ!
そして……絶対に生き残れ!
それが私の最後の願いだ!」
ヴァイオラは日の出を確認すると魔族の軍に突撃しました。
「エルフよ!
聖霊とともに在れ!
神が我らを救わずとも、私が救う!
命に代えても!」
そう叫びながら。
ヴァイオラは死にました。
魔族の高官との同士討ちでした。
生き残ったエルフ達は撤退しました。
そうしてエルフの英雄は死んだのです。
しかし、彼女の残したモノは偉大でした。
ヴァイオラは人々に多くのモノを残しました。
希望もその一つです。
エルフ達は協力して魔族勢力に立ち向かいました。
奇襲しては逃げ、奇襲しては逃げ。
エルフ達は種の誇りを持って奇襲を繰り返しました。
龍人とも戦っていた魔族はやがて衰退し、人間も多くが死にました。ダークエルフは撤退していき、魔物は逃げ惑いました。
そうして数百年に及ぶ戦いが終結していきました。
エルフ達は住む場所を取り返しました。
そして長い年月を掛けて戦いの傷を癒しました。
それが戦いに生涯を奪われた悲劇の英雄の時代です。
それがエルフ達からは『悲劇の戦い』と呼ばれる最凶の戦いのことです。
『用語辞典』
エルフ
自然を愛し、森と共存する種族。風の魔法、身体能力、五感や弓の腕が優れており、服や弓の製作技術も高い。寿命は人間より遥かに多く、一般的に300年生きると言われている。
ドワーフ
がっしりとした体格で、力や器用さが優れている。鍛冶技術や加工技術は極めて高く、他の追随を許さない。一般的に太陽の光を嫌い、暗い洞窟に住むことが多い。エルフや獣人との仲は良好。
獣人
魔法を苦手とし、身体能力に秀でている種族の総称であり、得意とすることは種族によって異なる。
人間
繁殖力が強く、ずる賢く、欲深いのが特徴。個々の能力では他種族に劣るため、数を集めて対抗する。殆どの種族と敵対しているが、龍族には形式的にだが従属している。
魔獣
魔力を巧みに使う、ある程度の知能を有した生物の総称。意思疎通はとれないため、支配することは不可能。全種族の敵どころか魔獣同士でも敵対している場合が多いのが特徴。
魔物
妖怪とも呼称される。高い知能を持つが、同時に強い破壊衝動も併せ持つため、殆どの種族との共存が出来ない。魔族やダークエルフに従う場合も多々ある。




