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デスパレードでデスパレートな異世界ライフ  作者: 蒼穹
第一章 最低状況からの成り上がり編
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     第九話 スケルトンVSゾンビ

 ココナが何かしら怪しいと思っていたのは確かだ。何せ裏路地で待ち合わせの時点でおかしいと感じていたが、言ってみれば周囲に滅茶苦茶生体反応あったし。


 俺は死んだふりをする為に仮死状態モードになっていたわけだけど、ここに聖女が来ているとは思わなかった。


 決して寝坊したわけじゃないよ。予想以上に仮死状態が長すぎただけ。


 まあ、ヒーローって遅れて登場するって言うし。



《ダークヒーローですけどね》



 うるさい。



 それよりも気になるのは目の前の明らかに怪しい物体Xだ。


「ただのスケルトンじゃねえなあ。つうかショットガンって、異世界人が魔物になったってか。おもしれえ。どっちが強ええか思い知らせてやる」



 死神みたいな半分ゾンビ顔の男が俺の体に掴みかかった。物凄い馬鹿力で俺の体は民家の壁を突き抜ける。



 お食事中だったらしい。



「「あ、すみません」」



 思わず二人で謝った後、俺はゾンビ野郎を外へ投げ飛ばす。

 心和むハートフルなお食事風景に割り込むバトル風景は、きっと格段のスパイスになりますよおじいさん。


 ゾンビの意外なパワーに俺も対抗すべく、民家から飛び出した直後にパワーアップを図る。


《パワージェネレーター起動します》



 通常の三倍の出力で今度は俺の攻撃。


 ゾンビ野郎の胸にインパクトハンドハンマーを叩きこんだ。


 向かいの民家へ壁を突き抜け、吹っ飛んだゾンビ野郎を追いかけた俺は、(おぞ)ましい光景を目撃する。




「愛してるよロミオ」




「愛してるよロイド」



 筋肉モリモリの男達がベッドの中でまさぐり合っているではないか。



 ゾンビ野郎もガン見。俺もガン見。



《不要なデータを視覚情報で得ないでください汚らわしい。死ねばいいのに》



 リリスからの猛抗議だがこればかりは第三者としては興味あるよね。




「どっちが受けだと思う?」



「俺はロミオだと思うな」



 俺の質問にゾンビ野郎はロミオと答えやがった。


 ここは普通ロイドだろ。実はロミオはしゃぶる専門かもしれないだろうに。



「いや、ロイドだろうな」



「あらあら二人ともカルテットプレイがお好みかしら?」


「「お邪魔しました!」」


 何ここだけ異空間的なカオスは。この体にはそのようなプレイが出来る機能は無いし一生換装スケジュールもございませんあしからず。



 急激な悪寒に魔物である俺達は抗えず退散。まさかここまで恐ろしい気配を醸し出す強者がいると思わなかった。



「埒が飽かねえな。そろそろくたばれやターミネーター野郎」



「うっせえぞバイオハザード。撒き散らすのは蛆だけにしとけ」



 ゾンビ野郎が影の中を移動して姿をかく乱してくる。影縫いと呼ばれる影を縫うように移動するスキルだ。俺みたいなパワー系には相性の悪い相手である。


 本来なら。

 

「そこだ! 必殺モグラ叩き!」



 リリスという量子演算処理AIの計算の前に無謀と言うもの。出現場所を特定されたゾンビ野郎の顔面に俺の拳がめり込んだ。



「ふごあああああ・・・・・・ってなあ、捉えたぜ」



 突如ゾンビ野郎に捕まれた俺の腕が爆発して、体ごと後方に吹き飛んだ。



 幸いクロムオリハルコンのおかげでちぎれはしなかったものの、右腕の関節部分がおかしな音を立てて、動きが完全におかしくなった。



「まさか内側から爆発させるなんてなあ」


「ち、なんて頑丈な奴だ」



 隠し玉が失敗してもなお余裕なのは、恐らくそれ以上に何かを隠しているからなのかもしれない。



《ポインティングボムをラーニング。特殊スキルと判定。解析結果、プロミネンスと合成できます。合成しますか?》



(YES)



《合成承認。破損したライトアームの破棄を行い新しいライトアームの作成を行いますか? 作成から交換までの所要時間は3分》



(YES)



 ここでの3分は恐らくラーメンが完成するのと同じくらい待ち遠しく感じられることだろう。ここは何としても耐えねばならない。



(オーバードライブモード起動する)



《エーテルドライブ・オーバーロード確認。オーバードライブ起動》



 装甲がスライドし、青白く発光する紋様が刻まれた内部フレームが露出する。



 同時に俺の右腕の破損部分が光の粒子となって消滅した。



「なんだよそれ、サイコなフレームかああ? どこまでふざけたスケルトンだくそがああああ」



 周囲の景から漆黒の触手が伸びて俺の体を拘束しようとする。



 今まで6倍速で機動する俺の体がゾンビ野郎の体をタコ殴り。



《合成終了。ニューフレアハンマーを獲得。発動に必要なシステムをライトアームに移植。ライトアーム交換まで30秒》



 地面を抉りながら移動する俺は、逃げ惑うゾンビ野郎を何度も追いついては殴りつける。



 更には宙返り前転で両足をゾンビ野郎の首にひっかけ、今度は華麗に後転。



「スケルトンシュタイナー!」


 フランケンなシュタイナーを自作にアレンジした技で、ゾンビ野郎の頭部が地面に刺さる。



 むくりと立ち上がり影の中に逃げ込もうとするゾンビ野郎。



「はあ、はあ、異世界に来てまで死んでられるかよ! クソが、てめえも異世界人なんだろ! ショットガンといいそのターミネーターもどきの体といい、なんでこの世界に味方すんだ! 俺達同じ被害者だろうが!」


 しぶとさもゾンビみたいだな。


「そうだろうな。でもな、だからって誰か恨んで解決するもんかよ。お前は人間としてきたんだろ? まだいいじゃねえか。俺なんかここで死んで更にスケルトンだ。死のお祭りだ。死の祭典(デスパレード)真っ最中なんだよ。でもなあ、俺は誰かにわかって貰おうなんて思わない。魔王? 勇者? 神様? そんなものクソくらえだ。スケルトン舐めるなよ。身ぐるみはがされリスタートで這い上がってやんよ。ちっとは死にもの狂い(デスパレート)に生きてから御託並べやがれ」




「・・・・・・上等だ。このソウルサッカーでてめえの魂刈り取ってやるぜ」



《警告。あの武器は物理防御では意味を成しません。回避を推奨》



 このボディでも危険ってか。それこそ上等だ。



《ライトアーム復旧。接続完了》



 突如出現した今までと違う腕。骨格がむき出しだった腕に装甲っぽいのが付属されている。



 冷却装置的な機構も内臓しているらしい。



 稼働の為に必要な魔晶石カートリッジからエネルギーが供給されると、右腕のマニピュレーターが赤く発光した。




「踊れよ。俺の死の祭典(デスパレード)の中で派手に」



「しゃたくせえええええ!」



 互いのハイスピードの世界。何もかもがスローモーションになる世界の中で、互いの存在を掛けた戦い。



 俺の右の拳に流れた莫大な魔力が具現化されてソウルサッカーにぶつかる。



 じりじりと無いはずの痛覚が刺激される気がした。



 これが俺の魂にダメージを与えているのだろう。それでも俺は拳を引込めなかった。



 初めてクロムオリハルコンの拳にダメージが通り始める中、ソウルサッカーにひびが入り始める。



 どちらの魂が先に砕けるか。



 その時、こいつの記憶が俺の中にわずかに流れ込んできた気がした。













「おーいケンゴ、新しいゲーム買ったんだろ? ちょっと貸せよ」



 酷く馬鹿らしい人生だったと思う。友達と言う定義が酷く曖昧な世の中で、そい

つらにとっての友達と言うのが、都合のいいパシリなのだと言うことがわかったの

は小学校の終わり。



 俺にとって友達とは不用の存在だった。



 無価値な存在。どうせ社会人になれば誰とも会うことは無いのだから。



 そう考えつつも、先人が生み出した処世術とは従うことだった。



 長いもの、力ある者に巻かれろ。そんな処世術でしか身を守る術を知らなかった俺。



 だからこそ俺は最終的に引きこもった。



 こんなくだらない世界から早くいなくなりたい。



 親も助けてくれない状況の中で、俺はどうやっても外で生きていくことが出来ず、無為な青春を送った。



 そんな時、夢のような出来事が起きた。それは自分の願いを具現化したような、そんな神の助けとも思える出来事・・・・・・それが異世界への旅立ちの始まりだ

った。




 なのに、俺はその世界に召喚されて、何の力も持っていなかったせいで呼び出した本人に捨てられた。



『君じゃない。ああ、失敗だ。え? 君? ああどこへでも好きなところへ行くと言い』




 右も左も知らぬこの世界で俺は着の身着のままで放逐され、そして・・・・・・










「そうだ・・・・・・俺は死んだんだ。放逐された日に。何の力も持たなかったせいで・・・・・・」




 ゾンビ野郎・・・・・・ケンゴは折れたソウルサッカーの柄を握ったまま、胸にどでかい風穴開けて空を見上げている。



「俺には前世の記憶がところどころ覚えていない。異世界の時の名前もな」




「そうか。俺はヒラノ・・・・・・ケンゴ・・・・・。お前と別な形で出会ってたら・・・・・・」




「さあなタラレバは美味くないっていうだろ」



「お前・・・・・・日本人だな・・・・・・かは・・・・・・レイナード・・・・・・そいつが俺を呼んだ・・・・・・」



「見つけたらどうしてほしい?」



「・・・・・・代わりに・・・・・・殴れ。あと他にもいる・・・・・・こいつ、持って行け」



 振り絞るような声でケンゴはそう言うと、ソウルサッカーの刃を差し出した。




 ゾンビのような顔の瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。まるで呪いが解けたかのように澄んでいた。



「もっとましなもの寄越せよ。ったく。まあ貰ってやる」



 俺はそいつを受け取る。




「俺も・・・・・・スケルトンが・・・・・・良かったな」




 最後の台詞がそれじゃあ締まらねえだろう。


 異世界に縛られた男の魂が解放された瞬間だった。

 

 何故だか俺はコイツを憎み切れず、優しさのつもりではなかったけど、俺はケンゴの瞳を閉じてやった。



《ヒラノケンゴの魂を獲得。遺骸をアイテムストレージに収納。ソウルサッカーの残骸もストックします》



 コイツの魂は解放してやってくれ。還してやろうぜ。このくそったれなデスパレードから。きっと地獄行きだろうけど、それでも恨みがつまったこの世界よりはよっぽどいいだろう。




《・・・・・・了解。彼からの贈り物がございます。影縫いを習得・ソウルサッカーの残骸を使用して武器を作成すればダイレクトソウルスティールが可能になります》



 俺は静かに頷いて、二人の元に歩み寄る。



「助けられたな。お前は一体何者?」



「通りすがりのスケルトンだ」


 ヴェイローズの質問にそれだけを言い残して俺は立ち去ろうとした。



「待ってください!」



 背中越しに呼び止めてきたのはココナ。彼女は俺に指を見せて来る。



「この指輪有難うございます。でも一体これはどこで?」



「ここに来る途中拾った。じゃあな」



 早速俺は覚えたての影縫いでその場から立ち去る。あまり長居してもボロ出しそうだし。



 それに回復の指輪もあるだろうから大丈夫だろう。


 何より俺の連絡を受けてヴェアトリスが二人の元に向かっている筈だから問題ないはず。



 取りあえず、大きな問題の一つが解決したと思ったんだけど、どうやら新しい問題が俺の知らないところで起きているようだ。



 少なくとも俺は無関係ではないのかも知れない。



 だけど今はまだ動くべきじゃないだろうな。


 



 ◇




《あらあら。13番が死んじゃったよ。脆いねえ。しかも大変なことにもなっちゃったって感じ》



 薄暗い屋敷の中、執務室の中でブリジットは頭を抱えていた。




「くそくそくそくそ! もとはと言えばお前が立てた作戦ではないか! よもや賊が捕まるとは。しかもあの女を仕留め損なったなどと!」



《そうだねえ。でも僕にはどうでもいいかなあ。面白い奴も確認できたし。うん。

まさかスケルトンの亜種なんて面白いじゃないか。それじゃ僕は行くよ。君には用は無いからねえ》



「ま、待て! 私を見捨てるつもりか!」



 ブリジットの懇願するような声は悪魔に届くことなくその存在は姿を消す。同時にブリジットの思考の中に靄がかかり始めた。



「はて、私は一体誰と話して・・・・・・それよりクリスタを何とかしなくては!」



「それはどういうことでしょうかドーナス卿」



 開け放たれた執務室の扉。そこにはヴェロニカ率いる聖女隊の女性達が立ちふさがる様に待ち構えていた。




「は、はひいい、ど、どうして!」




「貴方が賊を放ったことは明白です。ココナ=フリューゲルも拘束し、彼女からの証言を得ました。さてその他にも色々と不正があるようですが、話しの続きは連行してから聞かせて頂きましょうか」




「なぜ聖女隊がなぜだ」



「それは憲兵では手に負えない事案もありますし。それは貴方が一番良く分かっているはずですが」



 かつて何度も求婚するほど手に入れたかった相手に、ここで追いつめられるとは予想していなかったブリジット。



 既に自分には未来は無い。



 追いつめられたことに、背後の窓から飛び降りをしようと振り返った。


「どうされましたか? もしかして飛び降りなどとお考えですか? それはもう無理なお話です」




 かつてブラッディ・ヴァレンタインとして裏では恐れられた存在が、音も気配も無く自分の背後に迫っていたことに空いた口がふさがらないブリジット。



 彼女の瞳にはどこまでも冷たく、そしてブリジットなどを見ていなかった。



 観念したようにその場にへたり込むブリジットを、聖女達が取り囲み拘束すると、瞬く間に引っ立てられて執務室内は静寂に包まれていった。




 ただ一人残されたヴェロニカは静かに歩き出したが、部屋の中央まで来て一度歩みを止めた。




「ローズは不覚を取ったようですが、彼女は決して弱くはありません。ただ」




 そう言って執務室の絵画に向けて右手を向けた瞬間、音も無く壁が吹き飛んだ。




「私はその100倍は強いですよ」




 身を潜ませていた筈の魔人は、右半身を失い命からがらその場から脱出する。


《この僕の隠形が簡単に看破された・・・・・・しかもこの威力、加減してこれなんて化け物だろ・・・・・・》


 魔人が去った後、屋敷にやってきたヴェアトリスが呆れたような顔で執務室を訪れた。


「ワザと逃がしたのか?」



「ええ。どうせレーゲン侯爵の下へ行ったのでしょう」



「それより抜け駆けしたろ」



 普段とは違う素のヴェアトリスがやけに不機嫌な顔をして詰め寄って来るも、ヴェロニカはいつも通りの無表情で首を傾げた。



「何のことかしら」



「朝食。しかも下着まで選びに行ったそうじゃないか」



「そう。別に些末なことじゃない。貴方が自分だけ秘密を共有していると思ってい

る自己満足と比べたら」



「・・・・・・知ってるのか?」



「さあ。何のことかしら。それよりも例のスケルトンがヴェイローズを助けたそうね。不思議ね。ダンジョンから例のスケルトンがいなくなった。同時期にクリスタ君が戻ってきたの。貴方はどう思う?」



「ち、知るかよ。どうせわかってるんなら本人に直接聞けよ」



 ヴェアトリスは取り合うことなく執務室を出て行った。



「そうね。でも・・・・・・女って待つ生き物だから。これでも私だって嫉妬してるのだけれど」





 誰もいない部屋で一人呟きながらヴェロニカは小さく嘆息し、主のいなくなった執務室を出て行ったのだった。


次回から暫くほのぼの?

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