第八十話
体に感じていた重力が無くなった、無重力空間に放り投げられたような浮遊感を覚える。
自分が今どこにいるのか分からない。体はグルグルと漂流する様に動き、非常に不安定だった。目を開けるのも何か怖さを覚える。
そんな俺の視界で、何かが見えた。目を開けてもいないのに、何かが見えた。
映像のようなもの。小さくてよく見えない、そう思った矢先、それは大きく、より鮮明に俺の目に焼きついた。
それは俺だった。地に膝をつき、肩を震わせて泣いていた。その俺の目の前、そこには焼け果てた町、直ぐにそれがネフェティアだと分かった。
何だ……これは? その疑問がわいた瞬間、映像は別のものに切り替わる。
そこに映っているのも俺だった。
この俺も泣いていた。その腕には力なく横たわる恵理の姿が。その周囲は同じく動かなくなった人々で囲まれていた。
また切り替わる。今度は酷く生々しかった。
俺の目の前で、伊織が狼に襲われていた。俺の名を叫ぶ伊織の悲鳴が、脳内を反響する。
なんだ……一体これはなんなんだ!?
それから俺は幾度と無く俺の目の前で繰り返される悲劇を見る事を強要された。
目を背けようとしてもその光景は、俺の視界に張り付いてでもいるのか、全く目の前から消え去ろうとしない。
伊織が、恵理が、総樹が、桜が……。
俺の知っている人々が次々と目の前で死んでいく。
やめろ、やめてくれ! これ以上、俺には無理だ!
これ以上俺に、彼等が死ぬ姿を見せないでくれ!
そんなもの、あんなものを俺に思い出させないでくれ!




