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第七十九話

                       †

 俺が階段を上り、屋上に着くとそこには溢れんばかりの大量の人でごった返していた。何をしているのかと疑問に思い、また更にそれらの人々が全員唖然とした顔をしている事に疑問に持った。

「この集まりは一体何なんだ?」

 俺の言葉にその場にいた多くの人が振り向く。まるで幽霊でも見たかのように青ざめている顔だ。俺はその人ごみの中の先に、愚息を見つけた。フェンスに寄りかかるようにして座り、何かうな垂れている。様子がおかしいのは見て直ぐに分かった。

「何があった?」

「それが…………」

 その場にいた人が語ったのは、誰も見たことが無い男の話。町を猛スピードで駆け抜け、様々な物をなぎ倒し、町を混乱させた男。それがたった今この建物から身投げしたらしい。

 話を聞き、脳裏にあるものが浮かんだ。そうか……来たのか、瀬博人が。

「すまない皆! もうここはお開きだ! さぁもう戻ってくれ!!」

 俺の言葉にその場にいた人々は戸惑いながらも、いそいそと屋上を去っていく。人が死んだと認識しているにも関わらずその姿はあっさりだ。

 大丈夫、直に彼等は今日の事件を忘れる。そう願う。

 俺はその流れに逆らい、未だフェンス際で座り込んでいる勇斗に近づいた。

「父……さん」

 勇斗は酷く落ち込んだ表情で、俺を見上げていた。おそらく人が自分のせいで身投げしたと思っている。その気持ちは分かる。かつて俺もそうだった。

「男の名前は知っているか?」

「瀬……博人」

「そいつは何か言ってなかったか」

「何も……ただ……井戸の場所を確認したって」

 井戸の場所。井戸は湖ではない別の生活水の入手手段として開発されたものだ。湖の水には遅効性の毒がある。知らず知らずのうちに体を蝕み、そして一気に発病、死に至る。

 俺はしゃがみ、勇斗の肩に手を乗せる。

「勇斗、大丈夫だ。彼は死んでいない」

「そんな……だって」

「下は見たのか?」

 勇斗は首を振った。無理もない。確認など怖くて取れないだろう。

「見てみろ。下で誰も死んでなんかいないぞ」

 俺はフェンスによじ登り、建物の下を見た。死体なんてどこにも無い。あるはずが無い。

 ゆっくりとだが勇斗も動き出し、その事実を確認して面白いほど目を見開く。

「じゃ、じゃああいつは!?」

 勇斗は俺に言い寄る。

 今こそ話さなければならない時だと感じた。勇斗は知らなければなら無い。かつての俺のように。八神家に伝わる、摩訶不思議な現象を。

 かつての彼は俺からアロマの原材料である園を奪い去り、同じく役所の屋上から身を投げた。

 いや―俺だけでなく、八神家の人間は誰もがそれを体験している。彼に会っている。

「話を……しよう」

 

 八神麻斗。

 過去を変えるために未来へ渡り、世界を救う術を得て、再び過去へと戻る。

 そして初期のネフェティアを纏め上げ、世界の基盤を作り上げた人物。

 そんな、彼の数奇な物語を。

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