第七十八話
「いたぞ!!」
しかし、感傷に浸っている暇は無いようだ。いつの間にかに俺の背後には大量の人だかりが出来ていた。屋上を埋め尽くすほどの人が押し寄せている。よほど俺を取り押さえたいらしいと見える。
その集団の中で、俺は勇斗を見つけた。汗だくになり、肩で息をしていた。
それに引き換え俺は久々に走ったにも拘らず一切息を切らしていない。
「どうした勇斗? もう疲れたのか?」
「何……を!! まだまだ!!」
膝に手をついていた勇斗は苦しそうに体を起こす。根性はあるらしい。俺の子孫なのだから寧ろそうでなくては困る。俺とて根性なしとは思われたくはない。
いつの日か、自分の遺伝子を後世に残してはいけないと思っていただけに、何か不思議な思いに駆られた。
「お前! 一体何をする気なんだ!!」
風のため、声は自然と大きくなった。
「別に俺はここでは何もしない! 俺はただ、井戸の場所を調べてただけだ!」
「井戸の場所だと? 一体何のためにだ!!」
「それは俺の世界を守るためだ!!」
「世界を守る!? また意味の分からないことを言いやがって! そこで待っていやがれ!」
勇斗は勇ましく歩を踏み出し、フェンス先に居る俺に近づいてくる。後ろに控えている人々はそれをじっと見つめている。
その姿を見て思う。勇斗はこの世界で信頼されているリーダーになっているのか、と。
「悪いな、勇斗。お前とはここでお別れだ」
俺は縁の先に一歩踏み出す。後一歩踏み出せば落下するというぎりぎりのライン。
「お、おい! 待て! 早まるな!! 話せばきっと分かる」
急に勇斗は親身になって接してくる。先ほどまでの勢いはどこへやら、こんなんで人を導いて行けているのだろうか心配になる。
「動くんじゃないぞ!!」
勇斗、お前が一体誰の血を引いてるのか俺は知らないし、知りたくも無い。
「そんなところに立って、危ないとは思わないのか!?」
思えば、この世界にある歴史書などを持ち出せば全て解決するのかもしれない。
「聞いているのか!?」
だけど何故だか、もう俺には時間が残されていない気がする。
「博人!!」
勇斗が目の前、とうとうフェンス際まで詰め寄る。
「勇斗、未来の証であるお前に会えて俺は嬉しかった。ここは俺にとっての希望だ。ここが存在するから俺はこれからも頑張っていく事が出来る。自分の行動を信じる事が出来る」
「未来って……お前一体何を言って?」
「もう会う事は無いだろう。でも、もしまためぐり合う事が出来たら、真面目に剣の勝負をしてやるよ」
俺は歯を見せて笑った後、ゆっくりと体を後ろに倒す。視界が徐々に変わり、その下隅で勇斗の驚いた表情が見える。
死ぬと思っているのだろう。飛び降り自殺と思われているのだろう。
しかし、俺は死なない。死ぬわけにはいかない。
俺は自分の思考を全てネフェティアの始まりの日へと集中させた。
あの日、あの場所。全てが始まったあの時へ。
願えば叶う、ここにも、そうやって来た。
ネフェティアの未来を願い、その結果がこの世界だ。
願えば叶う、その力を使い、俺は時を越える。時を超え、あの地に立つ。
俺はネフェティアの町に目を移した。
今度こそ、世界を平和で何の危険も無い世界に導くために。
必ずここへ導いてみせる――――――そう、胸に刻み込んだ。
そして俺の視界は光に包まれた。




