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第七十七話

「はい終わり」

 その一瞬の隙を見逃さず、俺は出現させた刀を勇斗の首に添える。

「くっ……」

 顔を歪め、刀を凝視する勇斗。

「すまんな、本当はこんなことしたくないんだ。でもな」

 俺は刀を動かし、勇斗を窓際から遠ざけた。動きたくても動けない勇斗。その心情が今の俺には痛いほど分かる。

 外来人など出てきたら町が大混乱に陥る。自分たちしか存在しないはずの世界に、途中参加の人間がいるとは誰も思わない。

 だが、もしそうなった時、最初にすべきことは少人数でその人物を監視し、どういう人物か把握すること。

 その点で言えば勇斗の対応は正しくはあるが詰めが甘い。恐らく勇斗は身元不明の俺を皆に公表していないだろう。いや、この宿舎に住む何人かは知っているのかもしれないが、それでも勇斗は一人で俺を見極めようとした。

 もし暴れられた時どうするのか。例え武術の心得があったとしても、いくら相手が温厚な人間に見えたとしても慎重さを失ってはいけない。この世界ではどんな摩訶不思議な事が起きるか分からないのだから。

 その傲慢とも、自惚れとも言える注意力の欠損。世界は確かに平和になったが、それと引き換えに失ったものもあるようだ。なまじ人を超えた力を持つから、それを超えた力の出現に焦る。かつて博人さんに感じた俺の恐怖だ。

「でもな、俺にもやらなくちゃいけない事があるんだよ!」

 俺は机に飛び乗り刀を消して、そのまま窓からダイブする。宙に投げ出された俺だが、予想通りあの部屋はかつての俺の部屋だったらしく、二階からなので着地時に僅かに足が痺れた程度で済んだ。

 俺の目の前に広がったのは懐かしきネフェティアの風景。増築などで建物の形は変わっているが、これはまさしく俺の知っているネフェティアだった。

「待てぇぇぇ!!!」

 絶叫する勇斗の声が聞こえるが、当然構うわけも無く俺は走り出す。例え勇斗が力を使って追ってきたとしても、俺も力を使えば良いだけの事。壁抜けなどなら容易に出来る。

 行きかう人が猛スピードで走る俺に戸惑いの表情を向けてくる。所々見た事がある顔と遭遇するのが笑えてくる。俺を含め、皆しっかりと未来を作っているのだと感慨深くなる。

 俺は町中を走り回り、井戸の場所を確認した。闇雲に穴を掘ればいいというわけでもないため、しっかりと位置を頭に叩き込む。

 最後の七つ目の場所を確認した時、町はもう俺を追い掛け回す騒ぎで大変な事になっていた。俺を追ってくる人々の話を総合すると、俺を捕まえたら凄いお菓子が出るらしい。

 お菓子をお金と言い換えるとそれっぽく聞こえるけれど、お菓子だと全然緊張感ないね。というか大の大人がそんなお菓子ごときで血眼になるなよ。いくら通貨の概念が無いとは言え、これは酷い。なおさら捕まるわけにはいかない。

 そこまで考えて俺は、俺自身が最も浮かれている事に気付いた。恐らく、久方ぶりの他人との交流により、気が舞い上がっているのだろう。と、自己分析をする。

 俺は建物の屋根を伝い、移動を始める。そう大勢の人が乗れるわけも無いので自然と追ってくる数は減った。しかし、俺が進むたびにその下の路地にはうじゃうじゃとまるで餌をもらいに来た鯉のように人が集まっている。

 パッと見た限り一万人を軽く超えている。ここは確かに成功した町として機能しているようだ。この平和ボケと言えなくも無い活気も、成功による平和の象徴なのだと思う。

 追ってくる人々を振り払い、俺はやはり何年経っても一番高い、役所の本部を目指した。

 ペンキの塗り替えなどがあったのか少し俺の持っている印象と違ったが、構造的に変わりは無く、俺は建物に入って一目散に屋上を目指した。途中、俺を通せんぼする輩が何人かいたが、「どけ、ぶっ殺すぞ」と刀を構えて言うと快く道を開けてくれた。

 意外に話せば分かる人々で、親近感がわいたのは内緒だ。

 何はともあれ屋上についた俺は、備えられていたフェンスをよじ登り、縁に立った。流石にそれなりに高いため、髪が流されるほど強いが吹く。

 しかし、俺はそんなもの気にするどころではなかった。

 そこから一望するネフェティア一円に俺は固唾を呑んだ。俺の知っているネフェティアより町の面積ははるかに広い。森の木を切り新たな土地を開拓したのだろう。人が増えるという事はそういうことだ。

 俺の知らない建物がそこらかしこに見えた。

 ここは俺の知っている世界であり、それと同時に俺の知らない世界でもある。

 ここでは俺の知らない、この成功した世界だからこそ送る事が出来る生活が営まれている。

 成功したからこその平和、発展、繁栄が成されていた。俺は純粋にこの世界の姿に感動を覚えた。

 こんな世界を、俺も作り上げる。胸が熱くなった。

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