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第七十一話

 博人さんは絶望しかない状況で、希望の光に導いてくれる存在だった。

 だが、こうも思う。それは依存だ。俺たちは力を合わせて何かを解決してきたように見えるが、それは全て博人さんあってのものだった。

 知らず知らずのうちに博人さんに依存し、自分自身の力で生きることと向き合っていなかったのではないのか。

 そう思うと今の自分が、自分の無力さが情けなく、不甲斐なく感じられた。

「悲観するな」

 そんな俺を見てか、博人さんが叱咤するように言う。

「無力なのは俺だ。世界を平和に導こうと、あの世界へ導こうと決意したにも拘らず、自分の役目が終わってしまい、恐怖した。これから先は私も知らない事が起きるという事実に絶望した。依存していたのは俺の方だ。全てを知ってると高をくくり淡々と物事を解決し、分かっていたはずのその先を、真剣に考えなかった俺の責任だ」

 博人さんは歯軋りするように悔しい感情を露にした。どんな窮地でも今まで博人さんはそんな顔を見せなった。知っていることと知らないこと。助けたくてもその術を知らない。全てを知っていた、今までとの違い。

 博人さん自身も、それに苦しんでいる。苦しんでいる人々を救えなくて苦しんでいる。

 何も出来ない男二人がそこにいた。鎮静効果があるというミントの匂いは、嫌というほど冷静な現実を押し付けているようにしか感じられなかった。

「今から話すことを……心して聞け。そしてありのままに受け入れ、記憶しろ」

 博人さんは一度深く息をついた。そして覚悟を決めたように俺を見る。睨みつけるような威圧感、真剣みを持って俺を見る。俺はその迫力に呑まれそうになるも、何とか堪える。

「もうすぐ、そう遠くない未来にこの世界は滅亡する。お前以外の全員の人間が死を迎える」

「ッ! そんな! そんなことなんで―」

「分かるんだよ」

 断言する博人さんに再度俺は言葉を挟みたかった。だが、その様々な憶測が絡み合った言葉を発することはできなかった。

 博人さんの言葉からは理解をしてもらおうという気遣いが感じられなかった。宣言した通り受け入れろと納得を強いている言葉。有無を言わさぬ圧力。

「この世界は何が起こるか分からない。だからこそこの世界を安定に保ち、導く存在がいなければならない。それが八神麻斗、妹のために一族全員を殺し、この世界を生み出す一端を担った者の責任であり、宿命だ。いいか、お前はこれから多くの絶望を目の当たりにし、生きる気力すら失うだろう。そしてたった一人になる。その時は東へ向かえ。そこにこの世界の未来がある。願えば辿り着けるはずだ。そしてそこでお前は何をすべきかを悟るはずだ」

 博人さんは言葉を区切り、顔を伏せる。そして堪えるように息を吐き、顔を上げる。その表情は力なく笑っていた。

「ひろ―ッ!」

 博人さんの名前を呼ぼうとした俺は、途中で言葉を止めた、止めざるを得なかった。

 博人さん、そして園の体が透けて見えた。透明になった体は背後の風景を透過して俺の視界に情報を伝えてくる。それはまるで、触ったら消えてしまうかのような儚さを感じさせる光景だった。

「すまない、お前に伝えられるのはここまでみたいだ。時間が来たんだ」

「時間って……そんな……」

「元々瀬博人なんて人間はこの世界に存在しないイレギュラーな存在だ。お前たちみたいな正規に選出された人間じゃなく、この閉ざされた世界に縛られた地縛霊。そんなもんだ。お前も直ぐに理解する、させられるさ」

 そこで、博人さんは軽くフッと笑った。何か吹っ切れたような笑顔だった。

「俺には出来なかった。この世界を救えなかった。だが、お前が全ての災厄を乗り越え、この輪廻を断ち切り、そしてこの子を救い、あの世界を作ってくれる事を……俺は祈っている」

 そして歯を見せるように満面の笑みを浮かべると、博人さんと園、二人の姿が細かな光り輝く粒子となり、部屋の中に空しく霧散した。

 瀬博人と園という二人が存在したという証は完全に消え去った。

 突然のあまりの不思議な光景に、俺はそれを唖然と見送ることしか出来なかった。

 この世界を導く責任を宿命があるという言葉の意味は、よく理解ができない。

 それが何を指し示し、そしてそれが俺にとってどんな意味合いを持つのかも。

 だが博人さんは言った。

 もう直ぐ世界は滅亡する。

 絶望を味わう。

 その時は東に向かえ。

 そこにこの世界の未来がある。

 自分の中で感情が震えた。

 何かを託された、それもこの世界にとって重要な何かを。

 この世界を未来へと導く何かを。

「…………ッ!」

 気付けば俺は部屋にあったアロマキャンドルを持ち、遊軍代表室を飛び出した。

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