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第六十一話

 一先ず宿舎に入ろうということで、泣き崩れた累を伊織が助ける形で俺たちは玄関を潜った。

 すると中に入ったところで、玄関ホールに明かりが灯された。スイッチがある場所には腕を組んだ恵理の姿があった。

「何か……あったのね?」

 俺たちの姿を見て、恵理は静かに呟いた。

「まぁそれよりまずその子を座らせましょう」

 泣き崩れている累を見て、恵理はリビングのドアを開き中に入っていった。俺たちもその後に続くようにリビングへと入っていく。

 累をソファーに座らせ、その隣に伊織、正面に俺と総樹が座った。そして先に入っていた恵理が全員分の紅茶を入れ、それぞれの前に置いていき、間にある一人がけに腰をかける。

 累は未だ落ち着く気配はなく、伊織が優しく肩を抱いていた。

「今のうちに話を聞かせてくれないかしら?」

 その様子を見て恵理は俺と総樹に視線を移す。俺たちは先ほど目にした光景、清陽が百合子さんを使い桜を嵌めようとしたこと、そしてその清陽を博人さんに任せたことを話した。

 清陽が何故桜を襲ったのかについては名言は避けた。

 だが清陽が神隠しの模倣犯であり、俺が本当の神隠しの実行犯である事は包み隠さず話した。

 その話を聞き終えた時、恵理は深くため息を吐いた。

「まぁ仕方が無いんじゃないかしら?」

「仕方が……無い?」

 俺は恵理の答えに思わずきょとんと返してしまう。

「だってそうでしょ? 世界に適用できなくなった人を排除する。自然淘汰とはまた違うけれど、合理的に考えればその理論は間違ってないと思うわ。腐ったみかんと言えばいいのかしら?」

 悪びれなく返し、肩をすくめる。まさか肯定されるとは思わなかっただけに俺は言葉を失った。

「どうせ人道的にあーだこーだと一丁前に悩んでいたんだろうけど、私からすればまぁ正しい判断だと思うわ。不安や恐れは伝染する。それもこの少ない人口の中でそんな輩を野放しにしていたら、どんな危険があるかも分からないわ。まぁ伊織だけ知っていたのは癪だけど」

 そう言って恵理は俺を睨んだ。返す言葉も何もない。

「俺は……何となくそうじゃないかとは思っていたがな」

 恐る恐る、総樹が呟いた。

「お前の過去を知っている俺からすればあぁなるほどなって。お前らしいなって思えちまう」

 呆れた顔で総樹は俺を見た。

 両親を殺して妹をいいように操った一族全員を皆殺しにした。それが俺らしい……か。

 不思議と、嫌な気分にはならなかった。そういう総樹に、俺も妙に納得をしてしまっている。同じ境遇の人間だからだろうか、総樹が知っていた事に驚かない自分がいる。

「だから、今度は俺が過去と向き合う番だな」

 静かな言葉。そこに暗い心情が隠れていることに俺は気付いた。

 総樹の過去、元の世界で総樹は不良グループのリーダーだった。他の集団との抗争はあるものの、だが犯罪に手は染めることはなく、ただ馬鹿な事をして日々を過ごしていた。

 そんなに総樹たちのグループが地元の暴力団に目をつけられる。仲間が暴行に遭いたまり場も燃やされたのだ。

 報復は絶対にしない。そうグループのメンバーに誓わせ、総樹は解散を宣言した。

 しかし後日、総樹と同居していた女性が買い物途中、暴力団関係者によって総樹の目の前で轢き殺されてしまう。総樹は女性の死亡を彼女の家族に報告した後、暴力団の事務所に突入。二十人いた暴力団員全てを嬲り殺しにするも、銃弾に倒れる。

 病院で微かに意識を取り戻すも、助かる見込みもなく、自身の死を悟った。

 二〇一一年大晦日の出来事。

 総樹が今でも殺された彼女と、その家族に罪悪感を抱いていることを俺は知っている。

 だが、その総樹の過去と今が一体何の関係が―

「累は彼女の妹なんだ」

 総樹の言葉に、累の体がビクッと震えた。

「俺と累は元の世界で会った事がある。そして最悪な別れ方をした。だから、俺はこの世界で累を見た時、殺されても良いと思っていた。それだけ恨まれることをした、累の家族をめちゃくちゃに壊したのは他でもない俺だから」

 清陽は言っていた。総樹に届いた贈り物、それには食中毒の菌が付着しており、食べるだけで死に至る。

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