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第五十七話

「ですが安全を考える事に越したことはありません」

「えっ!? な、何ですかそれは!? そんなもの……一体どこから!?」

「あなたが知る必要の無いことですよ。第一、臆病風に吹かれ証拠となるものを後生大事に抱えている時点で、あなたはもう用済みです。大丈夫、証拠の方はこちらで処分します」

「そんな! いや、いやぁぁ!! やめて、やめてください!! やめてええぇぇぇ!!!!!」

 気が付けば、俺は自分の出せる全力を使って地を蹴り、走り出していた。

 目の前の百合子さんは腰が抜けたのか地べたに腰を下ろし後ずさりしている。その表情は驚愕と恐怖。醜く、何かから一心不乱に逃げようともがいている姿だった。

 間に合え! 俺は走りながら左手を前に突き出す。一瞬、左手が光に包まれると同時に左手に感触が生まれる。そしてその感触を離さないようにしっかりと握り締める。

 キィン!という甲高い音が闇夜に響き渡り、左手に上から押し潰すような圧力がかかる。

「っらあぁぁ!!」

 左足を軸に体を回転させ、伸ばした左手に右手を添えて呼吸と共にかち上げ、圧力を跳ね返す。左手に握った刀の刀身に月明かりが反射して一瞬視界が瞬いた。

 一族の家宝として保管され、そして一族の人間を全て虐殺した刀。真紅に染まったはずの刀身は一切穢れなく、鏡のように光り輝いていた。

「あぁぁ……あああぁぁぁ!!!!」

 背後で絶叫と共に倒れる音、百合子さんがショックで気を失ったのか。だが、それに気を取られているわけにはいかない。視界の先、目の前の人物はよろける様に後ずさる。その右手には俺とは違う刀。

「……清陽」

 長身痩躯の青年、いつもニヒルな笑みを浮かべている顔は驚きに満ちている。声だけでも十分だった。しかし、俺はどうしてもその姿を見るまで信じられなかった。そしてその姿を見て更に衝撃を受けた。

「どうして……あんたが?」

「はっ…………そのどうして、とは一体どの事についてだ? 朝陽桜をはめたことか? それとも……これの事か?」

 驚きの表情から一転、あざけ笑い清陽は手に持つ刀を振る。その姿は正に狂喜、俺はその姿に覚えがあった。忘れもしない、祖父や親戚一同を皆殺しにした時の俺だ。

「お前こそ何故その力を使える! これはこの世界に選ばれた僕だけ、僕だけが使える力のはずだ!」

 その姿を見て、俺は全てを理解した。俺が予想したとおり、神隠しの模倣犯は俺と同じ力を持っていた。そしてその模倣犯は清陽だった。

 俺の持つ自由自在に刀を出現させる力。それにより凶器が常に手元にあり、そして力を使わない限り出てくることは無い魔法とも言える力。そしてもう一つ、神出鬼没さの象徴である壁を抜ける力。それを用いて俺は誰にも気づかれること無く神隠しを行っていた。

 桜の事件を追っていたはずが、神隠しの方に行き当たるとは。いや、つまるところその二つは起源が同じだったという訳だ。

「なるほど……その力! やっと分かったぞ! 以前の神隠しは貴様がしていたのか!」

 血走った目を見開き、絶叫とともに清陽が狂ったように刀を振って接近してくる。だが、それは真剣の扱いに心得が無いどころか剣術にすら精通していない素人の動きそのもの。

 俺は襲い掛かる刀に自身の刀身を重ね、軌道を僅かにずらす。脚運びがままならない清陽はそれだけで体勢を崩し、うめき声を上げて身を投げ出すように倒れた。

 俺は清陽の動きに気を配りながら、倒れた拍子に手放した刀をすぐさま拾い上げる。

「ふざけやがってぇぇ!!!」

 いきり立ち、手ぶらで襲い掛かる清陽に刀の切っ先を向ける。刀の間合いに入る寸前、もう少しで顔面に刃がかかるという紙一重の位置で清陽は急停止する。

 歯をカチカチと鳴らし、怯えきった表情をして鼻先の刀を震えた目で凝視する。

「お前は一体何をしたんだ?」

「ぼ、僕を殺すのか!? この僕を! 僕は選ばれた人間だぞ!」

 怒りが恐怖を勝ったのか、それともすでに精神がイカレたのか、切っ先を向けられている状況にも拘らず、強気の姿勢。酷く虫唾が走り、今すぐ斬り殺したい衝動に駆られる。

「答えろ……お前がしたこと、やってきた事を洗いざらい!! 全て!!」

 俺は自身の衝動を抑える意味も込め、向けた刀を勢いよく振り下ろす。刀身が地を抉る。清陽に触れてはいない。しかし、それだけで清陽はまるで凍りついたかのように狂った表情のまま膝から崩れ落ちた。

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