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第五十四話

 夜。俺は自室のベッドに腰をかけ、物思いに耽っていた。昼間リビングで話した内容が頭の中で生き物のように蠢いていたのだ。桜がいなくなった原因に百合子さんが関わっている。そして桜の代わりにその百合子さんがここへ来た。いくらなんでも出来すぎた話ではないか。

 状況から百合子さんに話を聞くのが最も効果的なのは分かっている。だが、効果的ではあっても現実的では無い。ただ聞くだけでは百合子さんは何かをやったにしろ、やっていないにしろ「知らない」と答える。この程度シラを切ればいい。なにせこっちは推測で言っているだけで何の証拠も無いのだ。

 昼間は恵理を落ち着かせた後、タイミング悪く百合子さんが現れてしまい、そのまま解散となったが、はたして話を続けたとしても良い案が出たかと言われると怪しい。

 それと神隠し騒動についてもそうだ。夕月の話から新たに神隠しにあった人物は実のところ問題を引き起こしていた。しかしそれは生産内限定、俺の耳にも入っていない情報だ。

 ではその情報を知っている人物が、俺の模倣犯としてその人物を消したのか。他の人々も同様、表に出ていない問題がバレてしまいその模倣犯に消されてしまったのか。

 話の筋は悪くない。もしこの考えが正しければこの模倣犯は俺と同じ思想の持ち主ということになる。一緒に世界の平穏を保って行ける仲間になれる。

「なんて思えないんだよなぁこれが」

 俺はベッドに体を投げ出した。

 話の筋は通っている。しかし何か納得がいかない。先入観があったからかもしれないが、俺にはこの模倣犯が世界の平穏のために動いているとは思えない。自分の行為は完全に棚上げしているが、腑に落ちないのは事実だった。

 ではこの模倣犯の目的はなんなのか。ただの愉快犯にしては、わざわざ生産で監禁されている人間の元に出向くのはリスクが高いし、たった一晩で五人を消すのはどうかと思う。目的が無いと言われればそれまでだが、どうにも気になる。

 模倣犯にはその人物たちを殺す必要があった。それも早急に。それが意味する事は―

「――斗君、起きてる?もしかして寝ちゃった?」

 ノックと共にドアの向こうから伊織の声が聞こえ、我に帰る。どうやら思考の深みに嵌っていたようだ。跳ね起き、ドアを開く。俺が突然ドアを開けたからか、伊織は驚いた顔をしていた。

「悪い、ぼーっとしてた。何か用か?」

「あ、うん。ちょっとね」

「まぁとりあえず中に」

 最近は俺の部屋によく人が入るなぁと思いながら伊織を招く。依然と同じように椅子を出し、俺はベッドに腰掛ける。その間、終始伊織は何か気落ちした表情をしていた。

「コンサートの練習はどうだ?」

 話したい内容はあるが何か言い辛い、そんな空気を感じたので俺のほうから話題を振る。

「順調だよ。去年は初めてだったから色々ごたごたしてたけど、今年は勝手が分かっているから去年よりも凄いことになりそう。元々機材とかは一通り揃ってたからね」

「そいつは楽しみだ。俺も伊織の歌は好きだからな」

「ありがとう。月並みな言い方だけど、すごい緊張してるよ」

「でも観客的な意味で言えば元の世界のステージの方が緊張するんじゃないのか?」

 一万人の前で歌うというのはそれはそれで大きなことだが、伊織はそれ以上のことを仕事としてやっていた実績がある。そう考えるとこの空気にも慣れているんじゃないかと思った。

「そういった意味で言えば確かに元いた世界の方が緊張はするよ。あっちはテレビ中継なんかもあったし、目の前の人だけが聞いているわけじゃなかったから。でもね、多分今の私はあっちの世界とは比べ物にならないほど緊張してるんだよ」

 落ち着き、伊織は柔らかい笑みを浮かべる。

「こっちでの私の歌はただの歌じゃない。正真正銘みんなを平和に導くための歌。みんなに希望を与える歌じゃなくちゃいけない」

 伊織の歌はただの歌ではない。人々の平和を願い、実現させる力を持った歌。排除を手段とした俺とは似て非なる鎮める力。

「だけど、私は皆の力になれているのかな」

 笑顔から一転、伊織から笑みが消えた。

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