第五十三話
……しばし沈黙。
「知ってるって……えっと何を?」
「半年前に家事と生産のやり取りをした人でしょ?私知ってるよ、知ってるんだけど……」
自信なさ気に語尾が小さくしていく。そんな夕月を固唾を飲んで見つめる。
「これも秘密って言われてるんだけど、実はその人この前に神隠しに逢ってるの」
「この前って!? それってまさか!?」
驚き、声を上げた総樹は同じく驚いた俺と顔を見合わせた。一昨日の晩の大量失踪。その被害者のことだ。
「その人、さっき言った半年前の問題に関わってた人で、今は生産で監禁状態だったの。その問題は生産以外把握してる人はいないと思うし、警察にも届けてない」
「警察に届けたら監禁してたこともばれ、秘密にした問題が浮き彫りにしてしまうからね」
話を聞き、恵理は頷きながら言う。
家事側と生産側、その両者の秘密が明らかになりつつある。今更ながら、この世界の構造が少し恐ろしく感じてきた。表向きは協力しても、裏では隠し合いの応酬だ。
「そもそも問題を起こしたんなら、こっちに連絡を入れれば」
「それは違うよ」
声を荒げる総樹に、夕月は淡々と告げる。
「問題が起きても警察に連絡しなかったのはその人を守るためなの。警察に連絡を入れれば問題が広まる。皆その事件を知っちゃう。そうなった人がどうなるか、分かってるでしょ?」
「それは……」
呟き、夕月の顔を見ながら総樹は悲痛な顔をする。先程の怒りが一瞬で霧散した。
改めて理解したのだ。ネフェティアで問題を起こした人間、それは神隠しに逢う対象になるということを。
「だから生産の中で監禁、いや保護したのね。自由と引き換えに、生かすために」
恵理の言葉に神妙に頷いた夕月からは胸の内がどうなっているか読み取る事が出来ない。
「じゃあ家事の人が桜ちゃんを隠そうとしているのって」
「桜を守るため。そう思えなくも無いな」
伊織の言葉に同意する。夕月が話した状況と今の桜の状況は良く似ている。今まで家事側に憤りを感じてきたが、そんな理由があったとは皮肉なものだ。
「家事にも、話を広めたくない理由がある」
「博人さんが言った言葉だな?」
俺の呟きに総樹と恵理が反応を示す。
「桜ちゃん……大丈夫かな」
「なんにせよ、感傷に浸ってはいられないわ。いないからにはもう確認の仕様がない」
伊織の心配そうな呟きに恵理が手を叩き、場を仕切り直すために叱咤する。こういう時恵理は強い。
俯いていた俺と総樹は顔を上げる。そうだ、問題はまだ終わっていない。
「それにその人物が一人で今回の問題を起こしていたのなら、その時の生産側の調査で数字の表記問題が浮き彫りになってるはず。問題はもう片方の家事側の人間よ」
「さっきの口振りだと夕月はそれも知ってるみたいだったな」
気を取り直した総樹の言葉に夕月は頷いた後、怪訝な顔をして首を傾げる。
「何か気になることでもあるのか?」
「いやそうじゃないんだけど。う~んまぁいいのかなぁ。凄くヤバイ感じだけど」
何故か言い渋る夕月。何がヤバイのか俺たちには分からない。
すると夕月は「ちょっと耳貸して」と四人を近づかせ、呟いた。
「家事側の人が佐々倉百合子っていう、さっき花壇で水遣ってた人なんだけど」
それの後「やっぱり私の言う通りでしょ!」と自慢げに訴える恵理を何とか落ち着かせた。




