第四十八話
「お疲れ」
家事を出たところで総樹が待っていた。総樹の姿に外まで見送ってくれた家事の方々が笑みを零した。そんなに露骨にやらなくてもいいではないか。
二人で宿舎に戻ろうと町を歩く。
町は近々控えている二周年式典のためいつもより人の動きが激しかった。雰囲気も活気のいいものになっている。
だが、その裏では桜の問題や神隠しが背中合わせの状態で存在している。表面上の平穏。今のネフェティアに被さっているのはそういったものだ。
「神隠しのこと、あれから色々調べたんだが」
会話らしい会話をもなくただ並んで歩いていた時、おもむろに総樹が口を開いた。
だが俺もさほど驚くことはなかった。
「関係あるかどうかは分からないが、被害にあった五人、全員所属している組織が別々だった。これって何か意味あると思うか?」
「なんとも言えないな。因みにどこだ?」
「お前のとこと俺のところ以外。覚えてるか? 去年のクリスマスにえらく恵理にぞっこんだった奴のこと」
「あぁ宿舎にまで押しかけてきたからな、よく覚えてるよ」
記憶を探った俺は、去年のクリスマスに恵理に積極的に行動していた男性を思い出した。
かっこいいと言う容姿ではないものの、だからといって悪い訳ではなく良くも悪くも特徴のない普通の人であった。
「確か教育の人だったよな……ってまさか!?」
「そ、教育の被害者はまさにその人。まぁその事が問題だって言えば問題になるんだろうけど、やっぱり以前の神隠しの被害者とはまるっきり違ってる。以前はこの世界で深刻な問題を引き起こした奴だけだった。それが今回は嘘のように無実の人々が消えている」
「……何が言いたいんだ?」
俺の問いに、総樹は歩みを止めた。それに対面する形で、俺は体を反転させる。
「今回の神隠し、もしかしたら以前とはまったくの別物なんじゃないか?」
心臓を鷲掴みにされたような衝撃を感じた。別に以前の神隠しは俺が起こしていたと知られたわけではない。しかし心臓に悪い話であることに違いは無い。俺はこの件について知りすぎている。一市民以上の情報を持ちすぎている。
「そう……言われれば、そうかもしれないな」
だからこそ、当たり障りのない返答をする。ボロを出さないように。
「まぁだからどうってわけでもないんだがな。どちらにしろ捜査をしようにも何の手がかりも掴めてないんだ。八方塞でお手上げ…………」
「どうした?」
途中で言葉を止め、総樹は急に表情から感情を無くした。その視線は俺ではなく、俺の背後に向けられていた。反転した俺は総樹の視線の先を追った。
そこには一人の少女が立っていた。ボブへヤーの少し線の細い少女。年齢は桜と同じくらいだろうか。その少女は俺たちの方に顔を向けていた。いや、はっきりと俺たちを見据えている。
その少女と俺は視線があった。すると少女は驚きの色を見せた後、挙動不審なように慌てふためき、逃げるようにその場を去って行った。
「なぁ麻斗」
声をかけられ、少女を追っていた目線を総樹に移す。
「俺たちはこの世界で死んだら……どうなるんだ」
「えっ!?」
「いや、悪い。忘れてくれ。さ、帰ろうぜ。女王様がお待ちかねだ」
そう呟くと総樹はニカッとした笑みを見せる。どう見ても作り笑いだ。しかし、俺はそこを追求する事は出来なかった。
俺たちは既に死んでいる。それは俺と総樹の共通認識だ。つまり今生きているとされている俺たちは死人。ではその死人が死んだ時、一体その存在はどうなるのか。
神隠しの実行犯である俺はこの世界で死んだ人間は細かな粒子となって消え去ることを知っている。
だが総樹が聞いた事はそういうことではない。もっと根本的な、この世界の存在意味。死んだはずの俺たちが再び生を受けた意味。それを聞いているのだ。
俺はその問いに、答えを持っていない。




