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第四十七話

「それは……」

 桜は言い難そうに顔を落とした。

「知っていたのか?なら……。いや、別に責めてるわけじゃないんだが」

「大丈夫です。私が余分に食料が届けられていたのを知っていた事は事実ですから」

 桜は何か吹っ切れたように、言葉を続けた。

「詳しく教えてくれるか?」

「気が付いたのは半年前、突然大人1人分多く記載されて食料が送られてきました」

「突然?その時は報告したのか?」

「……いえ……していません」

 桜は小さく首を横に振った。尋問のようになってしまうが、俺はそこを追及する。

「どうしてだ?」

「送られている量に変化が無かったんです。発注の時に提出した数も七人分になっていましたので、ただの記載ミスかなとしか思いませんでした。でも……それは違ったんです」

 声のトーンが落ち、桜は一旦呼吸を整えてから言った。

「私が七人分だって思っていた量は実は八人分だったんです」

 両手を顔に当て、絞り出したような声だった。桜が言葉を途切れさせた事でなんとなく予想はしていた。

「気付かない間に人一人分量が増えてたって事か」

 俺の呟く桜は首を縦に振る。量が一気に増えたのか、それとも徐々に増えていったのかは分からない。ここで俺は新たな可能性―いや、最初から予想していた可能性が濃厚になったと感じた。それはつまり、外部の人間による工作行為という事だ。

 聞いている分にはただの手違いとも思える。発注ミスの可能性だってあるかもしれない。だがそれでは数が増えている意味が分からない。

 家事側か、それとも出荷を担当している生産側か。はたまたそれとは違う別の組織か。第三者の介入を示唆するのは寧ろ自然なことだ。

「どれにしろ桜がやったわけじゃないんだろ?それが分かれば―」

「違うんです!」

 俺の言葉を桜が比較的大きな声で遮った。

「私が悪いんです!!」

 桜は取り乱したように立て続けに、悲鳴に似たヒステリックな叫び声をあげる。俺だけでなく、ドア付近で控えていた2人も体を強張らせた。

「私が報告しなかったから、言わなかったから悪いんです!!私が悪いんです!!」

 いつの間にかに桜の目には涙が溜まっていた。発せられる声もどもったように聞こえる。昨日といい今日といい、俺を含めて何かと取り乱す人が多いな。桜の様子を見て理解した。先程桜は俺の問いに言いにくいように答えた。それは桜が今回の事件は自分に責任があると感じていたからだ。

 残酷だが、桜の言い分は正しい。桜が報告を怠っていなければ、些細な変化を指摘していれば、こんな事にはならなかった。間違いであると知りながら隠匿した。それは罪だ。認めざるを得ない。だが、

「桜、それは結果論だ。お前が気付いていれば、報告していれば。最終的に事が大きくなってしまっただけでその責任が全部お前にあるってわけじゃない」

「でも私は!」

 桜は非情に訴える様に俺に顔を向けた。

「そうだな、お前は知っていながらそれを言わなかった。隠したって言われても、そう感じても仕方が無い。それはお前の責任だ」

 俺は変に桜を肯定しなかった。ダメなものはダメとはっきり言う。頭ごなしに肯定して良いというものでもない。ここで冷静にならなければいつまで経っても話は進まない。

「でも今問題なのは何で余分に送られていたのかだ。それはお前がやったことじゃないし、お前が責任を感じることじゃない」

 桜はまだ幼さが残る顔をくしゃくしゃに歪めて泣いていた。手で何回も目に溜まった涙を払うが、涙は止まる事を知らない。次から次へと流れ出している。

 怖かったのだろう。知らない所で勝手に物事が動いている事に。

 自分がしていた事に気付いた時にはもう遅かった。それはいつの間にかに大きく膨れ上がっていた。桜1人では扱いきれないものになっていた。7人分、その事実を突きつけられた時、桜がどんなに絶望したか俺は知らない。

 先程はああ言ったが、誰かに相談も出来なかっただろう。下手に話したら話が広がり、非難の目を浴びて罰せられてしまう。そうでなくとも疑心暗鬼に襲われ、最悪自分を見失うだろう。実際に俺たちはその光景をこの目で見、その結末を知っている。

 そんな恐怖、俺には「何で相談しなかったんだ」と言う事が出来ない。俺とて、もし自分がそんな状態になってしまったら迫害される恐怖に慄き、口を閉ざす。

 いや、俺はその状態にはなっている。他人には話せない、知られてしまったら危うい秘密を俺は持っている。そして知られてしまった時自分の身に何が起こるかも知っている。

 身を丸くして泣いている桜の姿を見て、俺は決心を強くする。桜を抱くように体を寄せると、耳元で桜の嗚咽を交えた鳴き声が聞こえた。

「今すぐには無理でも、絶対お前を連れて帰る。また皆であの家に住むんだ。少しの間、待っててくれるか?」

 優しく包むように声をかける。俺と桜の間に血の繋がりは無い。ネフェティアに来るまでは顔も名前も知らない関係だった。

 しかし、桜は今の俺にとってかけがえの無い家族、詠奈とは別の愛すべき妹だ。その妹が窮地に立たされている。そこで動かざるして何が兄だ。家族の危機は絶対に許さない。

「はい!」

 顔を上げ、震える鼻声で桜は答えた。

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