第四十四話
「話が脱線しまくってるんだが、そろそろいいか?」
恐る恐る総樹が会話に加わる。最初からいたのだが存在を忘れていた。
「麻斗も落ち着いたことだし、そろそろ本題に入ろうか」
総樹は背もたれ付きの椅子を持ってくると、それに恵理を腰掛けさせる。総樹は柳瀬さんが座っていた丸椅子に座った。さり気ない所で紳士である。
俺は無理を言って体を起こしてもらう。まだ頭は痛むが、横になりながら話すのは何か嫌だった。
「まず状況を整理しようか。麻斗は恵理から桜の事を聞いたってことで良いのか?」
「あぁ。総樹は何で桜の話を知ってたんだ?」
桜の話は家事内の秘匿事項のはずである。恵理がそれをどういう手段で知ったのかは分からないが、そう簡単に手に入る情報ではない。
「チラッと耳に入ってな。家事のお姉さま方を捕まえて独り言を呟いてもらった」
そんなんで話す秘匿事項って何なんだ。
「ん?もしかしてあの時か?」
俺は警察を訪れた際に総樹が二人の女性と話していたことを思い出した。
「さて、なんのことやら」
「お前もしかして他にもそうやって色々聞いて回ってんのか?」
「聞いてないぞ。俺は独り言に付き合っているだけだ。人聞きの悪い事言わないでくれ」
いや十分悪いだろ。いうなればナンパと同じだし。これだからビジュアル面が得している奴は困る。
「脳筋がどうやって知ったかなんて今はどうでも良いわ」
「そのネタを引っ張るのはやめてくれ」
腕を組み、恵理は興味無さそうな態度だ。そうだな、確かにどうでも良い。
「話を続けましょう。あなたが気を失ってからそう時間が経ったわけでもないから新しい情報と言うものは無いわ。総樹が聞いたのも私が知っていることとそう変わらなかったし。本当使えない」
恵理は流し目で総樹を睨む。
「何で俺怒られてんの?」
「一応謝っとけ。身のためだ。まぁ恵理、言いたい気持ちも分かるが、いちいち総樹の文句を言っていたら話が進まない。それは後で個人的にお願いする」
「個人授業とか何すんだよ?胸熱だな」
こいつ頭沸いてるんじゃないか?
「シュレディンガー方程式について熱く語りましょうか?」
「何それ?」
「素粒子学における」
「いや、やっぱいい。俺が悪かった」
諦めるの早いなおい。
それはさておき進展は無いか。確かにどこから手をつけて良いものか分からない事例ではある。何の考えも無しに家事に事実確認を取ろうにも、昨夜恵理が言ったとおり門前払いが目に見えている。
下手に探ろうものならいちゃもんをつけられてしまう。俺が取ろうとした強行突破は何が起きてもやってはいけない。
「せめて桜と話すことぐらいは出来そうにないのか?同居人ってことで何とかなりそうなもんだが」
「問題を隠したい家事側がそんな事許すわけ無いでしょ?あっちとしては私たちはまだ何も知らないんだから」
「まぁ正直な話俺らの宿舎の事なんだから説明してくれてもいいじゃんて感じなんだがな。いくら組織同士が独立してるって言っても説明責任てもんがあるよな」
「役所に相談はしたのか?」
「それはダメよ」
恵理はやけにきっぱりと言い切った。
「ダメだったのか?役所なら独立権を無効にして話を聞いてくれると思ったんだが」
役所は裁判所のように、各組織を監視する役割もある。組織が連携して動いていかなければいけないネフェティアでは、一度独断を許せば機能が完全に停止してしまう。ストライキなど、 もっての他という事だ。独立は許されても独断は厳禁、それがルールだ。
独断処置がなされていると分かった場合、役所は警察と協力して査察団を結成し、事実捜査を行いそれ相応の措置を下す事になっている。その権利を行使すれば今の場合家事が拒否使用とも、俺たち居住者に説明はなされるはずだ。
「それは俺も思ったんだが」
総樹が頬を掻きながら恵理を見る。
「それはあくまでも最終手段よ。別の方法を考えましょう」
「まぁ……そうだな」
妙に言い切る恵理に違和感を覚えるが、言っている事に間違いはない。役所に頼るという事は喧嘩を売っている事とそう変わりは無い。
「他に何か思いつかないか?」
総樹の言葉に、俺は唸る。
あるにはある。しかしそれは俺にとっての最終手段だ。奥の手である。そう簡単に出して良いものではない。俺としても使いたくない。




