第四十三話
「因みに誰、いやどっちから?」
「総樹君と恵理君が言っていたよ」
両方かよ!あいつらふざけやがって。この時既に俺の中で総樹に対する罪悪感は消え失せていた。無駄骨だ。俺が胸の内で呪いを呟くと願いが通じたのか、部屋のドアが開かれる。
「麻斗!目が覚めたんだって!?」
何食わぬ顔で入ってくる総樹と恵理。後ろに先程の看護婦さんがいる。どうやら俺が起きた事を伝えに言ったようだ。ありがたい、実にありがたい。
「頭大丈夫?」
恵理が心配そうに聞いてくるが、今はそれよりも優先する事がある。
「先生ちょっとこいつらと話したいんで席外してもらって良いですか?」
「あぁいいよ。頭を強く打っているみたいだから無理は禁物だよ」
忠告を残し、柳瀬さんと看護師の女性は部屋から退出する。そこで俺は改めて今回の被告人を見る。総樹はこれから何が行われるのかわからないのか戸惑いの表情。恵理は何か罰の悪そうな顔をしている。
「おい、誰が十メートルもある樫の樹で出来た大階段を壮絶に落下したって?」
「あん?何だそれ?」
総樹がきょとんとした顔をする。そうだよな、総樹が鎌田行進曲なんて知っているわけも無いものな。速攻で容疑者が1人に絞られた。一瞬目が合ったが直ぐに逸らされる。
「し、仕方なかったのよ。何で気絶したのかって説明しなくちゃならなかったし。他に原因が思いつかなかっただけなんだから」
ツンデレっぽく言われた。いや全然デレて無いけど。
普通に気絶したって言えば良いんじゃないか?逆に言い繕う理由も無いはずだが。いや、考え方を変えよう。わざわざ言い繕うという事は、何かを隠しているという事だ。この場合隠されているのは……。
「お前たち俺が何で気絶したか知ってるのか?」
二人はギクッという効果音が聞こえてきそうな表情を浮かべる。いや、変えないように努力をしているのだろうが、顔が引きつっている。
「な、何の事だか分からないわ」
「おい動揺が見え見えだぞ」
苦笑いを浮かべる恵理は目が泳いでいる。しらばっくれる気か。ネタは上がっているんだから白状すれば良いものを。早くしないと、
「お、俺が悪いんじゃないんだ!」
ほら相方が白状した。
「ちょ、ちょっと総樹!」
「やれって言われたんだ。俺じゃないんだよ。信じてくれよ」
命乞いをする様に総樹がベッドの傍に擦り寄ってくる。だが断る。
「アホか。手ぇ貸した時点で同罪だ」
問答無用で断罪。世の中そんなに甘くない。
「んで?俺に何した?」
「恵理が国語辞典でお前の後頭部を殴りました!」
「はぁ!?」
流石に驚いた。そんなことしたら下手したら死ぬだろ。じゃあ俺の気絶は人為的に引き起こされた脳震盪だってことか?この頭の痛みは国語辞典が引き起こされたものなのか?
改めて恵理を見やると、突然指を指された。
「あ、あなたが勝手にいきり立つのがいけないのよ!だから私が冷静にさせようとして」
「お前の地元では冷静にさせるのに後頭部ぶっ叩くのか!」
「え……えぇ、そうよ! 私の地元では後頭部を叩いて冷静にさせるのよ!」
「嘘付きやがれ! ぜってー今考えただろ」
ダメだ、いつもなら思考だけで止めるツッコミがつい口をついてしまう。
でも仕方ないよな。後頭部ぶっ叩かれたんだもん。あー頭ジンジンする。辞典の破壊力は凄まじい。
「麻斗そんな大きな声出すな。頭に響くぞ」
「ならもう少し気遣い溢れる会話を頼む」
顔に手を当て一息つく。落ち着いてから考える。確かにあの時の俺は冷静さを失っていた。桜を詠奈と重ね、我を失っていた。事実方法がどうであれ、恵理の一撃がなければどうなっていたか。そう考えれば俺は恵理に感謝すべきだ。
いや、方法は重要だな、うん。
「恵理、感謝したくないけど止めてくれてありがとう」
「感謝してるのかしてないのかはっきりしないわね」
「方法がダメだ。だからちょうどプラマイ0だ。もうちょっとスマートなやり方だったら惚れても良かった」
恵理が目を丸くしてきょとんとした顔で俺を見る。
「な、なんだよ?」
「あなた本当に頭大丈夫?もう一度ロリコンに見てもらったほうが良いんじゃないの?いえ、これはもう手遅れかしら。残念ねあなた。あぁ悲しい。証明の最後の最後で結論が間違いだったことに気付くくらい悲しいわ。幼稚園から日本語というものを習い直した方が良いのではないのかしら。これなら夢の方がまだマシよ。と言うわけで死んで頂戴」
「随分長い文句だな」
というか随分酷い言われようだ。俺も、夢も。
「これでもかなり要約したわ。全文聞く?」
「文章に纏めてくれたら暇な時読むかもな。今聞く気は一切無いが」
この手の冗談は恵理には通用しない。言えと言ったら本当に言うからだ。別に悪口を言ったわけではないのだがそんなに俺に惚れられるのが嫌か。
……嫌だろうな。今更だが俺の発言きもいな。
「ともかく、今度やる時はもう少し方法を考えてくれ。そうでなけりゃ俺の身が持たない」
「善処するわ」
お前は政治家か。




