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第三十九話

 それからしばらく、沈黙が流れた。

「理由は……聞かないの?」

 恐る恐るといった風に恵理が尋ねてきた。

「俺が許可を取ったのは1つだけだからな。お前こそ何で帰らない?」

「そんなの……屁理屈よ」

 先程までとは違い、恵理の声には落ち着きが感じられた。いや、この場合諦めたようなといった方が正解か。どちらにしろ、冷静に話が出来そうだ。

 恵理は横になっている椅子を直し、再び座った。ベッドに座っている俺と正対する位置。今の恵理はポンチョを着ているといってもネグリジェ姿である。つまり恵理は太股の途中から下にはソックスなどを履いていない。そこにあるのは見事な脚線美を誇る生足だ。

 すらっとした綺麗な脚、欲を言うのであればもう少し肉がついていた方が……って、俺は何を考えているんだ。

 恵理が椅子に座る間、一瞬目を奪われたが、直ぐに我に返り目線を逸らす。恵理は俺の視線に気付いていないようだ。どうにも視線を合わせ辛くなった。

「先に言っておくけど」

 ギクリ。

「私がどこからこの話を聞いたのかについては質問しないように……って何で今ため息つくのよ」

「いや何でもない」

 これは安堵のため息だ、なんて言っても説明が面倒だ。

「オーケー。それに関して俺はいっさい聞かないことを神に誓おう」

 大げさに顔の前で手を組み、祈りを捧げるポーズを取る。内心では本当に神に感謝している。そんな俺を見て、恵理が呆れたようにため息を付く。

「なんでこんな人が……」

 頭を抱えながら、哀れむような目線を向けられる。

「残念な人の様に見るのは止めてくれ」

「私が哀れんだのはあなたではなく、あなたを副代表に選んだ遊軍よ」

「なおさら酷いわ!」

「まぁそんなことはどうでも良いわ」

 こいつ面倒臭がって流しやがった。

 だが今の会話で俺は確信した。恵理はいつも通りに戻っている。罵倒されて確信したのは何か嫌ではあるが、いつもの恵理との会話である。噛みあわない会話がいつも通りって悲しいな。

「ともかく、結論から言わせてもらうとあなたの言う通り、桜は帰ってこないわ」

「それは百合子さんが言ってた問題ってのが原因か?」

「気安く名前を言わないで、反吐が出るわ。あの女なんてアレで十分よ」

 だからお前はどれだけ嫌ってるんだよ。最早指示語の領域か。

「それはもう分かったから。それで、実際合ってるのか?」

 いちいち気にしていたら話が進まないから困る。

「そうね。それで合ってるわ。まぁアレの言うとおり、少々ってわけじゃないのだけれど」

「と、言うと?」

「桜は今食料物資を横領した疑いで、家事内で取調べを受けているわ」

 ……………………はい?

「驚くのも無理は無いわね。何を隠そう、その食料物資を口にしていたのは私たち自身なのだから」

 いや、俺が驚いたのはそこではない。

「桜が物資を横領?横領って……あの横領か?」

「他人、または公共のものを不法に自分の物にすること。そして、物資が限られているネフェティアにおいて最も重い罪よ」

 恵理の言葉は淡々としていた。感情を押し殺しているようにも聞こえた。だからこそ、ここで俺が動揺するわけには行かない。

「仮にそれが本当なら桜は」

「神隠しに逢ったって不思議ではないわ。現に物資横領で神隠しに遭っている人間がいる」

 神隠し。ネフェティアで悪事を働いたものに下される罰。それがあの桜に降りかかるという事か。いやそんなはずは無い。

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