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第三十八話

「そんなことより何の用だ?それを確認するためだけに来たんじゃないだろ?」

「そ、そうよ!別に今の話なんてただの世間話程度よ!さっさと忘れなさい!!」

 はっとした表情の後、恵理は分かりやすく言い繕う。話が変わるのは俺としても好都合だ。

「なんでもいいからとにかく今直ぐにでもあの女を追い出しなさい」

 するといきなりストレートな答えが返ってきた。それも命令文で。お前は女王様か何かか。

「因みに何で?」

 誰?と聞くのも野暮だ。百合子さんのことに決まっている。

「あそこまで不愉快な人間を見るのは久しぶりよ」

 恵理はゆっくりと体を起こした。怒りの形相だった。ここで「なんだ、夢たちを奪われて嫉妬したのか?」と言う勇気は俺には無い。流石にそれは身の危険を感じる。

 ともあれ、理由がまだはっきりとしていない。

「どこらへんが?」

「全部ね」

「どれだけ毛嫌いしているんだお前は」

「強いて言うなら私への対応ね」

「何だ?馬鹿にでもされたのか?」

「言い得て妙ね」

「え、適当だったのに当たったのか?」

「恵理さんはスタイルが良くてお綺麗ですね、ですって」

 恵理は眉間に皺を寄せ、苛立ち気味に言った。

 馬鹿にされてるのか、それ。単に褒められたようにしか感じない。と考えるのがまぁ一般的か。この言葉は恵理の思考回路だと少し違った解釈になる。おそらく小馬鹿にされたように感じたのだろう。所謂お世辞と言う奴だ。

「分からなくも無いけど百合子さんも本心からそう言ったって可能性もあるだろ」

「何、あなたもあの女と同じことを言うのかしら?」

 ギロッと鋭い目で睨んでくる。口には出さないが実際恵理は百合子さんの言う通りの姿をしている。誰がどう見ても綺麗と答えるだろう。これで口が悪くなければ貰い手もあるのだろうが。と考えると睨む眼が更に鋭くなった。もしや思考を読まれたか。

「と、ともかくそんなものお前の思い違いってこともあるだろ。そんな理由で追い出せるわけがない」

「じゃああなたはあの女に何も感じなかったの?」

 心なしか恵理の言葉に熱が篭っているように聞こえた。

「夢たちは喜んでいたろ?」

「あの子達は関係無いわ。あなたはどうなの?ハッ、まさかああいう女が好みなの?」

「いや、そうは言って無いだろ」

「じゃあ何?何故あなたはあの女を庇うの?」

「ちょっと待て。お前自分が今何を言っているのか分かっているのか?」

 聞けば聞くほど恵理は百合子さんを悪だと決め付けている。決め付けたがっていると言って良い。何があってもその立場は変えるつもりは無いようだ。

 だが恵理の言い分は俺を納得させるのに十分であるとは言えない。個人的な感情による部分が多いのだ。今の恵理はそれを判断する能力さえ欠如しているとでもいうのか。

「何でお前がそこまで百合子さんを嫌っているのかは知らないが、何も問題が起こっていない以上、決め付けるのは良くないんじゃないか?それに桜が帰ってくれば百合子さんはここから出て行くんだろ?一体お前は何を焦ってるんだ?」

 俺は恵理が百合子さんをよく思ってないのを分かっていた。だから恵理が俺の部屋にいる恵理を見た時、壮大な愚痴を延々と聞かされるのだと予想していた。実際俺の予想は方向性は間違っていなかった。

 しかし、どうやら俺はその大きさを計り違えていたらしい。恵理の感情は俺の予想を遥かに超えていた。

 その時恵理が突然立ち上がった。勢いがあったため、椅子が後ろに転がる。悔しそうに顔をゆがめる恵理。聞こえるほどの大きさの舌打ちをして俺を睨んだ後、体の向きを変えて部屋を出て行こうとする。

 その姿を見た時、俺の頭に駆け抜けるものがあった。去ろうとする恵理の手を掴む。

「触らないで!!」

 俺の手を払おうと振り回すが、恵理の華奢な体では俺の手は払えない。

「一つ、確認させてくれ」

 俺は腕を引き寄せ、恵理を近くに寄せた。真っ直ぐ恵理の目を見つめる。

「な、何よ!」

「桜は……帰ってこないのか?」

 恵理は一度目を見開き、そして俺から視線を逸らした。それだけで十分だった。俺は恵理から手を離す。

「悪かった。手、痛まないか?」

 少々強引に引き止めたため、力を加え過ぎた。

「別に……大丈夫よ」

 恵理は掴まれた右手を左手で覆うようにして胸の前で組んだ。

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