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第三十七話

 総樹と百合子さんが好きな歌手について語り合い始めたところで、俺はリビングから退出した。歌手に疎いという事もあるが、そろそろ部屋に戻ったほうが良いと感じた。

 階段を上がり二階の廊下に出たところで案の定、俺の予想通りの展開が待っていた。俺の部屋のドアが開いたままになっている。特に驚くこともなく、開いたままになっているドアを開けて部屋に入った。

「遅かったわね」

 声の主はこちらに背を向け、机に突っ伏して座っていた。淡い紫色のネグリジェを身に纏い、その上に赤いポンチョを着ている。なんともセンスが微妙だ。

「待ってたんなら言ってくれよ」

 俺はベッドに腰掛ける。

「知ってたんなら早く来なさいよ」

 ごもっとも、恵理の言ったことは正しい。これは一本取られた。

 俺は食事中、恵理が何度か俺の顔を確認するように見ていたことに気付いていた。だから恵理が俺に言いたい事があるのは分かっていた。そしてその内容も大体予想がつく。

「それで、何の用だ?」

 そこをあえて聞いてみた。

「あら、ずいぶんな言い草ね」

「異性が一人夜中に訪ねて来たんだ、内心気が気じゃないさ」

「それを言うならこの前の伊織は快く部屋に入れていたみたいだけど?」

「見ていたのか!?」

 俺は思わず恵理に詰め寄ってしまう。俺と伊織はあの時神隠しの話をしていた。それは俺と伊織だけが知る話。ネフェティアの秘密を共有はしているものの、総樹と恵理にはそのことは何も話していない。

「入るのを見ただけよ。なに?そんなに私に見られたくないことでもしていたの?」

「いやそれは……」

 今更言いつくろうが、焦ってボロを出した俺にやましいところがあるのはもう恵理にとって確信になっている。話の内容は聞かれていないようだが、恵理相手に誤魔化しきれる自信は無い。

「まぁあなたたちにそんな秘密があったとしても、私にはまぁぁぁぁぁぁったく関係が無いことなのだけれど」

 恵理は明らかに不機嫌そうに鼻を鳴らした。まさか恵理にはもう全てが分かっているのか。これはもう諦めて覚悟を決め――

「子供はあなたに似てさぞ憎たらしいんでしょうねッ!!」

「………………」

 コイツハナニヲイッテイルンダ?

「あの、恵理さん。子供ってどういうことでしょうか?」

「あらここに来て惚けるの?いいのよここは中国ってわけでもないから作り放題よ。逆に日本以上の少子化過ぎて、空白の世代が長くなるから今すぐにでも作りなさい!作るがいいわ!」

「よーし分かったぁ。とりあえず落ち着けぇ。感情に任せたら見えるものも見えないぞぉ。ほらアメちゃんあるぞアメちゃんだぞぉ」

 拍子抜けの反動により、俺もどうかしてしまったのか、隠してある菓子棚からアメを取り出す。

「あなた……頭おかしくなったんじゃない?」

「今のお前よりは大分まともだ!」

 嘘偽りのない本音だ。

「何を言い出すのかと思えばそんなことかよ。そんな事実無い無い。まったくこれっぽっちもありません。あなたの勝手な思い過ごしです」

「思い……過ごし?」

「イエスッ!」

 肩の荷が、胃につっかえていた物が落ちた爽快感から俺も妙にテンションが上がっている。

 だが恵理はまだ理解が追いついていないのか、珍しく目を泳がして動揺しているように見える。もしかしたら今なら誤魔化しきれるか?

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