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第三十一話

「最初はどこに行くのさ?」

「そうだな……最後に生産に行くとして、まずは家事だな」

 遊軍と役所以外は本部を町の外周部に設けている。町をぐるっと一回りする感覚で進んでいけばいい。ついでに最後に黒王号を返すように回るのが一番効率がいいだろう。

「はいさ、んじゃ飛ばしていくよ」

 夕月は手綱を操り、ルイスキャップに合図を送る。呼応するようにルイスキャップが方向を変えた。俺も黒王号の向きを変える。

「先にどっちが着くか勝負しようか」

「スポーツ大会の前哨戦って事か?悪いけど俺と黒王号はゲームと言っても負けるつもりは無いぞ」

 スポーツ大会には競馬の種目がある。大体の参加者が生産の人間なのだが、俺はその中で唯一の例外で参加している。元々馬に乗れる人も少ない状況であるため、参加者の偏りは仕方が無いことではあるが、競技としての人気は高い。

 通貨の概念が存在しないネフェティアで賭け事と言えばおやつやつまみと言ったお菓子がかけられるものなので、誰でも気軽に参加する事が出来る。金が絡めば人は狂うが、お菓子が取られたくらいで狂うのは小学生くらいのものだ。

 そういった意味でネフェティアでは賭け事は容認されている。だからこそ競馬が成立している。

 俺と黒王号は先月の大会で夕月のルイスキャップと僅差で競り勝ち、優勝をした。自室にはトロフィーと大量のお菓子が今も眠っている。

「この前は負けたけど、今回の式典は絶対勝ってやるんだから」

 夕月の言葉に応じてルイスキャップも鼻を鳴らす。彼女も夕月と同様に中々賑やかな性格の持ち主で、尻尾を振って黒王号を挑発している。だが黒王号はそんなものには目もくれず、クールに受け流している。流石の貫禄だ。

「やりたければ勝手にどうぞ。俺はマイペースに行くがな」

 俺も黒王号に倣い軽く受け流す。

「んじゃいっくよ!!!」

 夕月の掛け声と共に先手必勝とばかりにルイスキャップが走り出した。俺と黒王号も遅れてその後を追う。馬道を通り、まず町の外周部に出た。

 そこから外周部をグルッと回るように家事の本部を目指す。街中の馬道を通っても良いのだが、昼間は人の通りが激しいので出来る限り外周部を走ることになっている。

 町と、それを囲む森は高さ二mほどの石で出来た塀によって区切られている。依然野獣が襲撃してきた事があり、対策として設けられたものだ。

 東西南北に存在する入り口には二十四時間警察が警備をしており、森の監視を行っている。また人の出入りについても記録をつけることになっている。これは神隠しを含めた事件への対策であり、人の動きを把握するために設けられている。

 例外として各本部の裏口、それと生産の農業関係では放牧なども行っているので、その農場を経由して行き来をする事が可能になっている。だが本部の裏口はともかくとしてわざわざ農場から出る人がいるかどうかはまた別の話だ。

 数分走っていると、家事の本部が見えてきた。赤い三角屋根の公民館のような外装の建物だ。

 俺と夕月は裏口の前で止まり、馬から降りる。そして裏口の横に備え付けられている呼び鈴を鳴らした。

「はいはーい」

 陽気な声と共に裏口が開かれた。三角巾にエプロンをした如何にも主婦な風貌で現れた女性は俺と夕月を見る。

「おや、麻斗君に夕月ちゃんじゃない。何か御用?」

 井戸端会議でも始めそうな軽い口調で聞かれた。書類を渡したい、と伝えると女性はにこやかに笑い、鍵を一つ渡された。鍵は裏口の傍にある馬小屋のもので、一先ずそこに黒王号たちを誘導させる。その後は俺たちが建物の中に誘導された。

「代表を呼んでくるから応接室で待っててね」

 そう言って女性は俺たちと別れた。

 家事の本部には食中毒事件の時などにも何回か出入りしたこともあり、内部構造はある程度把握していたので迷わず応接室を目指した。

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