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第二十四話

「あ、おかえりな……さい」

 宿舎へとたどり着いた俺と恵理を見て、ちょうど玄関ホールを通り過ぎようとしていた伊織が立ち止まり、そして挨拶の途中で怪訝な顔をした。その理由は言わずもがなで恵理である。

「…………」

 恵理はろくに挨拶も返さず、虫の居所が悪いオーラを露骨に醸し出しながら急ぎ足で玄関ホールを通り、二階へと続く階段を登っていった。

「麻斗君……一体何をしたの?」

「俺じゃないです。違います本当です信じてください」

 痛いくらいの疑いの目線を投げかけられるが、完全な濡れ衣である。

「まぁ麻斗君がそんなことする訳ないよね」

 そんなことが何か分からないがとりあえず頷いておいた。

「恵理さん! お夕飯もう少しでできるらしいので降りてきてくださいね!」

 自室の扉を開けたところだった恵理は、一度俺たちをものすごい形相で睨み、部屋の中に消えていった。夕飯で同席するのが気が重い。


 始まった夕食はある意味で賑やかだった。

「恵理さん!今日という今日はちゃんとした食事を取ってもらいますよ!」

「…………」

「ほら!野菜ばかりでタンパク質取ってないじゃないですか!」

「…………」

「あ!夢のお皿にお肉移すの止めて下さい!!」

「…………」

「わーい、恵理お姉ちゃん大好き!」

「…………」

「こら夢!あ、鈴ちょっと待っててね!だから恵理さん、それは夢の野菜です!!」

「…………」

 泣きたい。切実に。

「おい……どういう事だよ、これ」

 俺の隣に座っていた総樹が口元を隠しながら聞いて来た。悪乗りに定評がある総樹ですら、この状況に戸惑いを感じている。

 どういう事って言われても……聞くな。

「俺にも分からんのです」

 頭が痛くなった。

 食事の座席は、長方形のテーブルを囲むようになっていて長い辺に俺と伊織、その対面には夢を挟むように恵理と桜が座っている。そして短い辺の方には俺の側に総樹、伊織側に鈴が対面で座る形になっている。

 幼稚園組の好き嫌いを間に座っている女性陣で無くさせるための席配置―なのだが、それがまさか模範になるべき年長者が、堂々と自分の嫌いな物を十歳離れた子供と物々交換している光景を見ることになるとは。

 頭は良いんだからというわけではないが、いささか精神年齢が低く見える。

 そんな恵理を見て桜が頬を膨らませ始めた。肩も震え始め、もう怒りが絶頂を迎えそうになる。だが当の本人はそれでも無表情で黙々と夢の皿に肉を移しては夢の野菜を突っついている。

 頼みの綱の伊織だが、昼間同様に彼女に場を切り抜けるほどのスペックを期待するのは無謀とも言え、オロオロしている。

 どうなる我が家の食卓。もう今すぐこの場から消え去りたい。

「うちの女王様はご機嫌斜めってか?確かにどっかネジが外れてる奴だとは思っていたが、今日はまた別の方向で……っと、何でもないですよ」

 恵理が鋭く睨んできたため、総樹はそ知らぬ顔をした。すると目線が俺に移ってくる。俺は無関係だ。首を大げさに振って何も言ってない事を主張した。

 するとしばし睨まれた後、恵理はフォークを逆手に持ち、ザクッと叩きつけるようにテーブルの中央にあったリンゴに突き刺した。

 え、それどういう意味ですか?とても意味あり気に見えるんだけど。

 良く伝わらなかったが、俺に良い感情を持っていないことはよく分かった。

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