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第二十話

「ったく、勝手に入るなっていつも言ってるだろ?」

 俺は責任の追及を諦めた。そもそも園がそう簡単に何かを口にするわけがない。ネフェティアに来てかなり経つが、誰も園の声を聞いた事がある者はいないのだ。

 俺は閉め切っていたカーテンを開き、部屋に日差しを入れた。その明かりで園の髪が照らされ、艶やかな光を反射している。そこで園は再び俺を見た。伊織を丸い目、恵理をツリ目と表現するなら園の瞳はその中間当たる。優しそうでありながらも鋭さを兼ね揃えている目だ。

「そもそもお前、俺の部屋でいつも何してるんだよ?いつ見ても立ってるだけにしか見えないんだが……っておい!」

 俺が話している最中にも関わらず、園は体の向きを変え早々に部屋から退出してしまう。そしてそのまま上に続く階段がある方へと歩いていく。

 おいおいマジかよ。俺は嘲笑気味にため息を付いた。

 意思疎通の難易度で言えば園のそれは恵理をも凌いでいる。恵理の場合、会話をしないだけでこちらの話は一応耳には入っている。だが園は最早人の話を聞かないどころか、今のように話している最中にフラフラとどこかへ消えてしまう。会話自体を拒否しているのだ。

 更に園はこの建物から一歩も外に出ようとはしない。寝食をここで行い、昼間も特に何もせずに建物の中をうろうろしている。故に園はこの閉鎖された世界の中で数少ない、僅かの人間しか関わりを持たない住人になっていた。

 俺も会う機会が多いと言うだけで声を聞いたことはおろか、表情が変わったところすら見た事があるかどうかといったところである。俺が何かを言ったとしても、その両目でじっと見つめられた後、直ぐに目の前を去っていく。コミュニケーション障害にも程がある。

 俺と年がそう変わらないため、一応遊軍に所属しているという形にはなっているが、特に仕事をしているというわけではない。それが許されているのは園の保護者が、この遊軍の代表者だからである。

 俺は考えた末、園が向かったであろう遊軍代表室に向かうことにした。今日という今日は文句の一つでも言ってやろう。

 階段を使い五階へと上る。そこには俺の部屋と同じく、扉の横に「遊軍代表瀬博斗」という仰々しい立て看板が備え付けられていた。瀬博人、俺たちがネフェティアに降り立った初めての日に拡声器を手に持っていた男の名前だ。あの登場には誰もが度肝を抜かれ、唖然としてしまった。

 あの時博人さんは明らかに何かを知っている人間にしか見えなかったため、数人に取り抑えられてしまった。

 皆より先に目が覚めたから探索していただけというなんとも子供っぽい理由だったのは当時大きな反感を買ったが、今では笑い話となっている。ネフェティアという名前は今で言う役所の市長室にあった立て看板から引用したらしい。それが定着して町の名前になった。

 そんな人騒がせな彼だが、ここネフェティアではもっとも重要の一人に数えられている。それは彼がネフェティアの危機を幾度と無く救ってきたことに由来している。

 今現在ネフェティアは何の事件も起きておらず、穏やかな日々を過ごしている。半月後に行われる二周年式典に向けて町全体が活気づいている状態だ。

 だがここは存在そのものが不可思議な世界、本来は常に不測の事態というものが付きまとっており、今まで何度存亡の危機に立たされたのか。

 食料の腐敗や謎の病の発病、野生動物の襲来など数えたらきりが無い。そしてその全ての解決に最大の功績を残しているのがこの瀬博人である。

 一番最近の事件で言えば集団食中毒事件であろう。幸い俺たちの宿舎には害は無かったのだが、町の中心部にある多くの人間が住んでいた住居で起きた事件でネフェティア中が騒然としたことは記憶に新しい。そのため仕事の幾つかに遅れが生じてしまう結果になった。

 原因はネフェティア独特の食料を使った料理にあった。成分分析は研究が行うには行うのだが、ネフェティアのものであるが故何が起こるか分からない。

 この時は遅効性とマウス実験には引っかからなかったこともあり事件が起こった。

 瀬博人はそれに対して、研究と協力して解毒剤の調合を試みた。これにもネフェティア独特の植物を使った物で、作られた薬によってこの食中毒事件は収束した。その植物と言うのは依然町周辺の探索を行った際に俺が採取した物で、俺も一応一役は買っている。

 博人さんは救世主、実際にそう呼ばれはしないまでも、ネフェティアではそう称えられても良いほどの人物である。そしてあの園が唯一懐いている人物でもある。園は博人さんと拡声器騒動の時から行動を共にしている。

 俺は博人さんと園の関係を詳しいところまでは知らない。ただこの世界で数少ない、元いた世界から交流を持っている関係であることは知っていた。年齢差的に知り合いの子供か、親戚なのだと勝手に解釈していた。

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