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第十九話

 研究の本部を出た俺はその脚で再び町を訪れた。目指す遊軍の本部が町の中心、役所の隣に建てられているからだ。仕事の性質上様々なところに借り出される遊軍は、移動距離を考えてこの場所に本部を構えている。

 また借り出される他にも、役所からの伝達を各所に伝える役割や、宅配物の運送なども行っており、町の中心に合った方が色々とやりやすい。

 そう考えたところで、遊軍の仕事が完全な雑用にしか感じられないことに苦笑する。

 仕事に勤しんでいる人々がごった返す街を進み、俺は遊軍の本部に辿り着いた。ネフェティアを分断する七つの組織の内の一つと言っても、遊軍の本部は他の組織の建物に比べていくらかこじんまりとしている。

 コンクリートで出来た五階建てのビル、それが遊軍の本部だ。隣にネフェティア最大の建物である東京都庁を思わせる役所の本部があるため、より一層小さく見える。その比較たるや、小さな商店街と大型ショッピングモールを隣に並べた感覚である。

 もともと遊軍は仕事現場が他の組織のエリアであり、殆どの構成員が本部にいない。そのため遊軍の本部は、俺や代表の二人と事務の人間がいるだけになっている現状だ。

 遊軍本部の一階部分は銀行の窓口のようにカウンターが備え付けられている。そこではネフェティアの生活に対する不満や相談、協力要請などの受付を行っている。

 つまり総合相談窓口である。物資が少なく、個人個人で出来ることが限られている現状、それを代わりに引き受けることも遊軍の仕事の一つだ。

 俺が建物に入ると、それに気付いた何人かが手を振ってきた。それに手を振り返しながら、接客してるのに手を振るな、早く仕事に戻れと念じる。彼等は「分かってますよ」と言うように、直ぐに仕事へと戻った。

 基本遊軍の人間は陽気な人が多い。ユーモアに富んでいるとでも言えば良いのか、お祭りなどのイベントを率先して行う傾向にある。仕事場がころころと変わるのだ、そういう性格じゃなければやっていけない、という見方もある。だが仕事は出来るので、俺も特に言及することなく、上に行く階段を上った。

 二階と三階を通り越し、俺は4階にある自分の部屋へと赴いた。

 仰々しく「遊軍副代表八神麻斗」などと無駄に達筆な字で書かれた掛札は、俺が副代表になった時に遊軍の皆が作ってくれたものだ。祝ってくれたのは嬉しかったが、あんた等が俺を選んだんだって事を忘れるな。

 恵理の部屋とは異なり、俺の部屋は扉に鍵がついており(普通)俺は持っていた鍵を差し込んで回した。カチャという音と共に手に感触が伝わったところで俺は取っ手を回して扉を押した。ガンッという感触が俺の腕を駆け巡る。

 …………今俺鍵開けたよな?

 別に泥棒が中にいたらなどを考えているわけではない。住民全て顔見知りのこの世界で盗みなんていう真似を働いたら村八分どころじゃすまない。故に一つの答えが俺の頭を貫いていた。あいつまた勝手に入りやがったな。

 再度鍵を差し込んで今度こそ鍵を開けて中に入る。誰もいないはずの部屋には、俺の予想通りの少女がいた。

 可愛いヘヤピンをつけた黒いショートカットの髪、それに反するかのような真っ白のワンピース。袖口や首から見える素肌は驚くような白さを持っていた。前髪の下に見える目には表情らしいものは見られない。

 恵理に似た日本人形のような美しい容姿だが、こちらは本当に人形なのでは無いかと疑ってしまうほどの無表情である。

 その人物は部屋の主である俺が現れたにもかかわらず、僅かに顔を俺のほうに向けただけで、まるで何も見なかったかのように顔を戻した。

 何も言わないんかい。

「園!何か俺に言う事はないか?」

 俺は目の前の少女―園に問いかける。だがその園は未だに俺をいないものとして扱っているのか、こちらを振り向こうともしない。人の部屋の鍵を勝手に開けておいて反省しないどころか、憮然としている。

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