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第十八話

「まぁ……別にいいけど。因みに理由は?」

 ここで私に会いに来て欲しいから、などという甘酸っぱい返事が聞けるとは思っていない。そんな願望はとうに昔に捨てた。

「恐らく私は今日の夕方、宿舎に帰ると言う事を既に忘れている可能性があるわ」

「それで俺を帰りがけに俺をよこして思い出させろって言う事か?」

「そういうこと。理解が早くて助かるわ」

 いや、そんなこと自慢げに言われても困る。どう完璧でしょ?というドヤ顔をやめてくれ。

「確かにそっちのほうが確実に帰って来る保障があるしな。分かったよ。ここに来ればいいのか?」

「えぇお願いするわ」

 用件が済むと恵理は素っ気無い態度で直ぐに歩き始めた。もう少し愛想が良く出来ないのか。

 ネフェティアで生きる人間にとって、最重要とされる使命は、子孫を残すことだ。そうしなければ一万人と限定された人数ではいずれこの町の人口は減少の一途を辿る。

 そのため十八歳以上になると、役所主催の婚活パーティーに出席しなければならなくなる。その場で様々な異性と交流を持ち、結ばれて行く行くは次世代の子供を産んでもらうのだ。

 だが一万人しかいない人口、住民は殆ど顔見知りと言って良い。その中で生涯の伴侶を探すとなると、どうしても容姿の良い者の競争率が上がってしまう。

 事実、伊織はアイドルと言う事もあって何人もの男に告白されているらしい。総樹も十八歳以上と言う事で縁談がそれなりに舞い込んでいるらしい。あれはあれで子供のような性格ながら、外見はそれなりに整っており、人気のようだ。

 恵理も容姿は十分備わっている。伊織がまだ幼さを残る美しさに対し、恵理は大人の雰囲気の美しさを持つ。恐らくミスコンなどを行ったとしたら、この二人が上位に食い込むことは当然の事だろう。

 だが俺はそんな上玉と言える恵理が、仲良く男と話している場面に殆ど出くわした事が無い。基本的に積極的ではない恵理は終始口を開かない事が多い。週に一度開かれるネフェティアの会議でも何も発言しないことはそう珍しいことでもない。

 依然それを訊ねると、「特に会話が必要だとは思わないだけ。した方が良いと思うときにはちゃんとする」と、やや不機嫌そうに私やれば出来るんです発言を返された。

 一応聞かれれば答えるだけの対応は出来るものの、先程の俺との会話の通りかみ合わない、もしくは小馬鹿するなどの言葉が目立つ。恵理とて将来誰かの子供を生まなければいけない運命にある。遅くても二十代半ばほどには一人の子供を授からなければならない。

 その時どうするのか、恵理の後姿を見て俺は思った。

 そして最後にこう思う。俺の遺伝子は後世に残してはいけない、と。

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