世界の始まり
ネフェティア。
突如として1万人が送り込まれた不思議な世界。誰もどうやってここに来たのか記憶するものは居らず、選ばれた人間にも一貫性は見られない。そこには人が住むより先に建物があった。
食料も備えられていた。四方を森に囲まれ、近くには湖もあり自然の環境も整っていた。人が住む環境が、そこには既に備わっていた。
それぞれに役割を与え、人々は助け合いながら生きていた。何故自分たちがこの世界に送り込まれたのか、それを知らずに人々は生きていた。
今でも、ネフェティアに来た日を鮮明に覚えている。
記憶は、町のど真ん中で倒れていたことから始まった。目を覚まし、見た景色は自分が初めて見るものだった。
それから自然と人が集まり始め、町の中央広場に人だかりが出来た。誰もが、人が集まっているという安心感を求めた。
「ここはどこだ」「一体何が起こったんだ」「この町はなんなんだ」「拉致されたのか」
人々は現在の状況における不平不満を吐露した。誰も知らない町に放り出された現実。しかし、それに明確な答えをくれる存在は現れなかった。次第に人々の中で不安が渦を巻いた。先が見えないことを、誰もが恐怖した。
やがて騒ぎは自然と治まっていった。文句を言っても、無駄だと言う事に嫌でも気が付いたからだ。その中で暴徒化する人がいなかったのは幸いだった。
だが逆にその広場をどんよりとした空気が包み込んだ。誰もがこの状況に絶望していた。これから先の未来に誰も希望を抱けなかった。
―そんな時だ。
「えー皆さん、お集まりでしょうか」
拡声器を通した機械的な声が広場に響いた。人々の視線はその発信源へと向けられる。
広場に隣接する五階建ての建物、その五階部分の窓際に、一人の男性が拡声器を片手に立っていた。
ぼさぼさの髪に縁の太い眼鏡、クシャクシャのワイシャツ。はっきり言って風貌は良いとは言えなかった。
その男は一度人々を確認するように広場を見渡し、再び拡声器を構えて声を大にして言う。
「ようこそ皆さん!楽園と監獄の世界、ネフェティアへ!」
それがこの世界の始まりだった。