第十七話
「他の可能性があるのかもしれないけれど、結局何も分かっていないことには変わりないわ。今のところ、私たちには今まで通り生活していくしかないようね」
気付けば恵理はお弁当を全て食べ終わり、箱を風呂敷に包んでいた。俺はというと、途中で話しに没頭しすぎてしまい、あと三分の一ほど残っている。
「そう言えばあなた今日はどうしてここでお昼を食べているの?」
「今日休日なんだ」
朝と同じく流し込むように弁当をかき込む。
「一応聞いてあげるけど午後はどうするつもり?」
恵理の言葉に俺は思い出す。それを考えるためにここで昼飯を食べていたのだ。俺の頭には午後の予定など完全に忘れ去られていた。
そもそも急に暇を出されるからこうなる。休日の有意義な過ごし方など、良く分からない。この世界では特に。
「寝る……のはもったいない気がするんだよな。でもこれといってやることもないし。因みにお前は?」
「午後には高等部の授業と、研究の会議があるわ」
恵理は淡々と即答する。部屋は汚いが、こういったところはちゃんとしている。
恵理は研究以外にも教育に教師として働いている。たまに桜のクラスを持つこともあるらしい。恵理自身本来ならば学校で教わっているはずの年齢なのだが、桜曰く中々人気らしい。先の会話の噛み合わなさからはあまり想像出来ない。
「仕事は溜まっているんじゃないの?お飾りと言っても一応遊軍の副代表なのだから」
「飾りって言わないでくれ。地味に傷つく」
年齢で言えば恵理も同じ部類に入るのだが、恵理と俺ではあげた功績に圧倒的な差がつく。
片やネフェティア一の頭脳と呼ばれ、多くの医薬品の生成に成功している者。片や雑用の副リーダー。
別にそれが優劣を決めると言うわけではないが、ネフェティアの人々にどれだけ認知されているかと言われると、俺は恵理の足元にも及ばない。だからその話題を振られると、俺は黙って耐えるしかなかった。
だが恵理の言うとおり溜まっている仕事が無いわけでは無い。明日やろうとしたことではあるが、実質暇な今とあってはそれを片付けるのも良いだろう。
「そうだな、遊軍のほうにでも顔出してみるよ」
「そう」
恵理は席を発ち、机の上に乗せられていた教科書類を手に持った。高校の物理の教科書。俺は文系のため選択をしていない。
恵理が部屋を出ようとしていたので、俺もそれに続いて行こうとする。すると恵理は突然立ち止まり、俺の方に振り返る。腕を組みながら左手の指を口に添え、何かを考えている。
「良かったらなんだけど、帰り際にまた来てくれないかしら?」
考えがまとまったのか、一度頷いてから聞いてきた。