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第十六話

 だが出発時より危惧されていた、凶暴な野生動物の存在がこの探索により明らかになった。後にネフェティアの町を襲撃に来ることになる猪や狼、熊のなどはその探索と遊軍代表者の機転が無ければ町自体が滅亡していた。

 町の一番高い建物である役所の本部からは遠方に山が見えるものも、誰も探索に行こうとは言わなかった。そんな状況、ここが太平洋に存在すると言われても簡単には信じがたい。

「はっきり言っておくと、この赤丸には矛盾点が多く存在するわ」

 恵理は机の上に重なっている書類を俺の方に寄せる。手にとって見ると、それは恵理がネフェティアの場所についてまとめた資料だった。

「一番大きな点はあなたが言った通り、ネフェティアには海が存在しないこと。いえ、あるのかもしれないけど、けどその場合それを目視出来ない程の面積を持った島が、この赤丸には存在しないわ。この範囲にあるのは人が住む事が出来ない、島と呼ぶにもおこがましいほどに小さな岩山くらいよ。自分でここだって断言しておいて否定するのも可笑しいのだけれどね」

 恵理はため息混じりにまるで他人事のように話す。観点を変えてみると矛盾が生じる。それはつまり仮定が適切ではないこと、赤丸の中にネフェティアが無い事を物語っている。

「じゃあここは?」

「可能性としては、赤丸の中の地図には表記されていない島。エリア51のようなものね。それか……」

 言葉を止め、黒曜石のような瞳で恵理は俺を見る。言いたい事はなんとなく分かった。

「ここが現実でない、空想の世界かって事か……」

「えぇ。それも死んだ者が生きている、死者の世界よ」

 俺は見ていた書類を机の上に置く。ネフェティアが死者の世界、そんな馬鹿な話がある物か。しかし、その考えを提唱したのは他でもない、俺だ。俺にはそう思えるだけの記憶が備わっている。

 ネフェティアで生活している人間にはここにどうやって来たかという記憶はない。だが、自分が今までどのような人生を歩んできたかは記憶している。それ故、俺たちは自分がどこの誰であるかを知っている。

 だがその記憶は全員、誰一人例外なくある瞬間で停止している。

 それが二〇一一年大晦日。

 その日を最後に、俺たちの記憶は止まっていた。大晦日にどこで何をしたかはしっかりと記憶しているのに日付が変わった瞬間から記憶が無いのだ。不思議な感覚、だがいくら思い出そうとも俺たちの記憶の中に二〇一二年の記憶は存在していなかった。

 そこで何故俺が、このネフェティアを死者の世界と考えたのか。それは一言に尽きる。俺が二〇一一年大晦日、その年の終わりと同時に死んでいるはずの人間だからだ。本来死んでいる俺がこうして生きている。ネフェティアに来た俺にはまずそれが驚きだった。俺は死ぬ事が決定した人間だった。

 だからこそ、俺はこの世界を始めから死者の世界であると認識していた。故に皆も同じ、死んだ人間であると思っていた。

 だが、それを誰かに話せるわけが無かった。既に自分が死んでいる存在である根拠は存在しない。他の住民からすれば、彼等は生きているのが当然の状態でここに連れてこられたからだ。

 俺の記憶を語ったところで、忌み嫌われるだけなのは明白だった。だからこそ、俺はその考えをずっと胸に秘めて生活をしてきた。

 しかし、今現在この俺の考えを認識している人間がこのネフェティアに三人いる。それが俺からその可能性を示唆され興味を示した恵理と伊織、そして俺とほぼ同じ境遇である総樹だった。だからこそ、俺たちは町の中心から離れた場所に固まって生活していた。

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