第十四話
食品科の研究が半年ほど前に発表したものであるが、食べることも一つの娯楽であるネフェティアでは流行ることは無かった物である。
確かに栄養は取れるが、何も食事は栄養だけが重要と言うわけではない。
「因みに何食べてるんだ?」
僅かな希望を持って聞く。
「これよ」
恵理は机の引き出しを開く。俺は恵理を見直した事を撤回した。机の中から出てくる食べ物の時点でアウトだ。恵理が自慢げに取り出したのは一本のシュガースティックだった。どこからどう見てもシュガースティックにしか見えなかった。
「……それは?」
最早聞くのも面倒だが、訊ねる。
「これは食品科が先月開発した物よ。中には一日に必要な栄養が全て入っているの。これを紅茶の中に入れて飲めば栄養は十分取ったことになるわ」
恵理は自慢げに語る。俺は頭を抱えた。簡易食材より酷い。とうとう食べる事すら放棄している。食品科の奴はろくな物を作らないとも思った。そんな薬のようなものでは元々栄養が足りて無さそうな恵理には返って逆効果な気がしてきた。
「お前、今日はちゃんと夜帰って来い」
「何?もしかして私に帰って来て欲しいの?」
「アホか。どう見てもお前が取っているのはまともな食事じゃないんだよ。帰って来て桜の作ったものをちゃんと食え!」
精のつくものというわけではないが、せめて白米ぐらい食わせないと。
「栄養は取ってるわよ?」
「だからそこじゃ無いんだよ!ただでさえ細いのにこれ以上痩せたらどうするんだよ!」
恵理は一旦俺から視線を逸らし、思考を巡らせてから答えた。
「…………どうするんでしょうね?」
「俺が知るか!」
話にならないし、流石にこれ以上話を続ける気にもなれない。俺は本で埋め尽くされた部屋の中から椅子を探し出した。それだけでも一苦労だ。そして恵理の反対側に置いて腰をかける。
何?という表情の恵理を無視して俺は自分の弁当を執務机に乗せる。
「お前がちゃんと食べてるか見ていないと後で桜に怒られるんだ。悪いけどご一緒させてもらうぞ」
「なるほど、そんなに私が供物を租借している所が見たいの?」
「お前もっと別の言い方が無いのか?もう頼むから黙って食ってくれ」
やはり頭の構造が俺と違うのだと思った。それから恵理は納得いかないという表情を見せながらも、静かに弁当を食べ始めた。
桜の弁当は見た目通りの、味も申し分ない素晴らしい出来であった。卵焼き二つ取ってみても、お金を払っても良いくらいだ。中学生でこれだけの腕を持っている事に驚くほどである。
俺としてはこれを食べる事が出来るという喜びを恵理にも分かってもらいたいのだが。