第十三話
「そうだろうな。俺も呼ばれた覚えは無いよ。今日の用はこれだ」
俺は持っていた風呂敷に包まれた二つの弁当箱のうち一つを机の上に置いた。
「ふぅんなるほどね。とうとうあなたもそう来たのね」
すると恵理は先ほどの男性と同じように頷く。
「そう来たって?」
問いかけた俺を恵理は軽く顎を上げて何故か見下すように見た。
「言っておくけど私を買収しようなんて考えは甘いわよ」
そしてにやりとした笑みを浮かべる。
「…………えっ?」
「まず私は甘いものなんかには釣られない。食べ物にそこまで興味は無いの。もちもんお金なんてこの世界ではもっての外。私を釣ろうとするならモノポールくらい用意しないと」
「ちょっと待ってくれ。一体何の話だ?」
軽快に話を続けようとする恵理を遮るように言葉を挟む。
「俺がいつお前を買収しようとした?」
「そうじゃないならこれは一体何?」
恵理は机の上に置かれた弁当箱を指差す。
「お前のIQ180の頭の中にお弁当って言葉は無いのか?」
「……お弁当箱?」
俺はそんな難しい言葉使っているのか。IQ180の人間が首をかしげている。恵理はまるで爆発物でも相手にしている様に恐る恐る弁当箱を包んでいるハンカチを開けていく。
「桜からお前に届けるように言われたんだよ」
出てきた黄色い弁当箱を開け、恵理は中身を確認する。しっかりと栄養のバランスが考えられているどこに出しても恥ずかしくないお弁当がそこにあった。
「これを……あの子が?」
あまり表情を表に出さない恵理が弁当をまじまじと見つめている。
「そう。まともなもの食べてないだろうからって」
「失礼ね。これでも栄養には気をつけているわ」
俺の言葉に嘲笑を交えて恵理が答えた。
「本当か?」
これは驚きだった。先ほど本人も言ったことだが、恵理は食事に対して何の感情も持っていない。
その恵理の事だ、簡易栄養調整食品で生きていても不思議ではないと思った。