第十一話
「待ちたまえそこの君!」
俺はネフェティアで数少ない自動ドアを通った所で声をかけられる。怒声に似た声だったため、少し体がすくんだ。声をかけてきたのは白衣を着た男性。基本研究は白衣を着用している。男性は近寄って眉間に皺を寄せてかなりの至近距離で俺の顔を見る。
不良にガンを飛ばされている気分。と思ったら急に顔を崩した。
「誰かと思ったら麻斗君じゃないか」
「どうも、ご無沙汰してます」
友好的に肩を叩いてくる男性に、俺は控えめに挨拶をする。この人は研究の中でも比較友好的な人物だった。俺はよく研究の本部に出入りしているのだが、その時に顔見知りになった。今では町を歩いていても声をかけられるほどだ。
「ごめんごめん今眼鏡壊れてて殆ど見えないんだよ」
盛大に笑う男性を見て俺は苦笑いを浮かべる。近距離まで近づいたのは彼が眼鏡をつけていなかったからか。
「君が来たと言う事は、恵理君のところか?」
「まぁそうですけど」
「ほう。そうかそうか」
すると男性が感慨深く何かを頷いている。俺が恵理を訪ねるのはそう珍しいことでもないはずだが。
「何かあったんですか?」
「あったと言うべきか、あると言うべきか。どちらにしろその何か、を具体的に僕の口からは言えないな」
良く分からない。やはり友好的と言ってもこの人も研究の一人だ。言っている意味が俺には理解できなかった。
「まぁ気にしないことだ。恵理君なら自室にいるはずだよ。それじゃ僕はそろそろ時間なので行かせてもらうよ」
「はぁ」
再度肩を軽く叩き、男性はその場から颯爽と去っていった。いつも思うがかなりマイペースな人だ。まぁ恵理の場所を教えてくれただけでも良いとしよう。
彼は自動ドアを通りたかったのだろうが、ガラスを一枚間違えて、ガンッと盛大に窓に頭をぶつけていた。眼鏡が早く直るのを祈るばかりだった。
俺は階段を上り四階に行き、長い廊下を突き進んだ。建物の内部もかなりシンプルだ。上から見たらコの字型になっている建物内部の廊下には部屋の入り口がずらりと並んでいる。その横にそれぞれ何の研究室かの表札がくっ付けられている。
それだけである。階毎に行っている内容は違うのだろうが、俺はよく把握はしていない。