◆第8話◆
しつこいようですが、この作品は少し生々しい描写が入っております。ギリギリのところでボカシてはいますが…ご了承ください。
山下公園は何時でもカップルがイッパイだ。
岸壁に沿って点々と置かれたベンチは、それぞれが陣取って満席状態だった。
大人四人は座れるベンチだが、当然のように二人ずつしか座っていない。
「亜希子?」
何気なく通り過ぎたカップルの女性側が声を発した。
僕は、ただぼんやりと振り返った。
「あたし、洋子」
中学の同級生だった洋子。肌の白い大人しい娘。僕が初めて身体を交わした、あの洋子だった。
「どうしたの?」
僕はあまりの驚きで、逆に、あまりにもさりげない声で言った。
「デート。亜希子は……そう言えば横浜だったね」
洋子はそう言って、懐かしそうに微笑むと
「ねぇ、一人?」
「う、うん」
僕は彼女の連れの男をチラリと盗み見た。
僕の視線を感じた彼は、少し離れた場所からほんの少しだけ頭を下げた。
黒髪の短髪は爽やか系だが、どう考えても高校生には見えない。
「この後暇?」
洋子は唐突に言った。
「はあ? 特に予定なんて無いけど……」
洋子は彼氏のもとに駆け寄ると、何やら話をしている。
しばらくすると、男は何やらしょんぼりして、ひとり肩を落としながら公園から出て行った。
彼女は再び小走りに僕の傍に来ると
「これでゆっくりできる」
「彼氏、どうしたの?」
「今日は先に帰ってもらったよ」
「ええっ? 大丈夫なの?」
「平気、平気」
彼女は中学の頃に比べると、ずいぶんハキハキしているように見えたが、白い肌と長い黒髪はあの頃と変わっていない。
洋子は彼氏と歩いていた。
男を相手にできるようになったのだ。
しかし、女性と身体を交えたい欲求は、変わっていないらしい。
「ここ、入れるかな?」
僕たちは、ラブホの前にいた。
「男同士は駄目だけど、女同士はたいてい入れてくれるわ」
彼女が言った通り、僕たちはすんなり入ることが出来た。
洋子は以前にも誰かと女同士で入っているのだろうか。
彼女は、女性の身体とは久しぶりなのか、その行動は大胆で、激しかった。
もちろん僕も、誰かと身体を交えるのは久しぶりだ。
そう考えると、彼女は彼氏とは何時もシテいるのだ。
何時の間にか、僕よりも経験豊富になっていると言う事だろうか。
部屋の自販機でオモチャを買った。
「こ、こんなの入るかな……」
「大丈夫だよ。あたし、もっと大きいの持ってるよ」
洋子はそう言って、しなやかな指でコンドームをそれに被せた。
この日は、常に洋子がリードしてきた。
彼女は男と交えた経験を着実に積み上げて、それをふんだんに生かしてきた。
オモチャの奇妙な振動音が、二人の吐息に挟まれるように鳴り続けた。
二人の身体が同時に痙攣して、ベッドに倒れた。
「洋子は男でも女でもデキルんだね」
「本当は、こうしているのが一番心地いい」
洋子は、少し気だるい笑顔をして
「でも、男にされるのもけっこういいよ」
僕は何も言わずに、ただ笑みを返しただけだった。
外へ出ると、紺青の空に月が浮かんでいた。
雲に紛れてぼんやりと朧げなその光りは、街の灯に掻き消されていた。
僕たちは桜木町の駅で手を振って別れた。
メルアドを交換したが、再び彼女に会う事は無いような気がする。
人混みの喧騒に消えてゆく洋子の細い背中を見ながら、僕はそう思った。