◆第4話◆
ゴールデンウイーク中の日曜日、僕は近所のコンビニで買い物をしていた。
「よお、三田村じゃん」
同じクラスの三浦紀が声を掛けてきた。
「あれ? オサムの家ってこの辺」
「ああ、この裏」
僕は入学式当日に声を掛けてきた男子とはあまり仲良くしていない。知り合い程度にはなったが、何だか親しくする気にはなれなかった。
コイツは出席番号も近いせいで、朝礼の列も教室の席も近いが、必要な事以外で声を掛けてきた事はなかった。
サッカー選手の三浦カズにあこがれてサッカーを始めたらしいが、髪型まで真似ているのが何だかおかしい。
「何だよ、日曜日に一人でコンビニ?」
オサムが笑いながら僕の買い物カゴを覗く。
「いいだろ、別に」
彼はカゴの中のカップめんを見て再び笑った。
「自分で何か作らないのか?」
「いいじゃん、面倒くさいよ」
家には母親がいるが、あまり一緒にいたくない。
僕はオサムのカゴを見て
「あんただって」
「俺は男だからいいんだよ」
そんな話をしながら、清算を済ませたカップめんにお湯を注ぐオサムにつられて、僕も自分のカップめんにお湯を入れた。
空は青く晴れ渡り、海へ続いていた。って言うか、たぶんそうだろう。海は見えないけど……
僕たちはコンビニの外へ出ると、駐車場の一番端まで行って縁せきに腰掛けた。
「お前変わっていんな」
「な、なんで?」
「女が普通、こんな所でカップめん食うか?」
「いいだろ。オサムにつられたんだよ」
僕たちは、熱いラーメンを啜りながら暑い陽気に照らされていた。
「亜希子は、見た目とずいぶん違うんだな」
「なにが?」
僕はそう言いながらめんを啜る。
「もっと、女らしいと思ってたよ」
「そう?」
「いや、活発そうだとは思ったけどさ」
オサムはいち早くスープを飲み干すと、ポケットからタバコを取り出した。
キンッと音を立てたライターに火が灯る。
「でも、食べるスピードは女らしいな」
「ほっといてよ、猫舌なんだよ」
僕はそう言いながら、スープを啜る。
彼はおいしそうに煙を吸って、空に向かって吐き出した。
そしてオサムは、自分のポケットから冷たいお茶を取り出すと、僕の横に置いた。
「あ、ありがとう。オサムは?」
「今、買ってくる」
オサムは立ち上がると、吸殻を灰皿に投げ込んで店内に入って行った。
僕は何となくその後姿を見つめながら、お茶のキャップを開けた。
久しぶりに心地いい慣れ合いの会話を、自認する同性と交わした気がした。
連休中は、昌美といるか、オサムといるかだった。
それだけ、彼のさっぱりした性格が心地よかった。
連休中も部活がある時は、学校の近くで待ち合わせたりもした。
「亜希子は普段スカート履かないのか?」
「どうして?」
「いや、ジーパンばっかりだから」
「スカート履いてほしい?」
「別に、どっちでもいいさ」
オサムはそう言ってはにかんだ笑いを浮かべた。
彼といるのは、純粋に楽しかった。
どうか彼が僕に惚れてしまいませんように。ずっとこのまま、異性を感じさせない間柄でいられますように……僕は、初めてそんな願いを思ってみた。