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◆第27話◆

 次の日バイトに行くと、未穂に会った。

 洋介の事で、未穂の事を考える余裕が無かった僕は、彼女の顔を見て、初めて二人で交わした禁断の行為を思い出した。

「大変だったね。大丈夫?」

 気まずい空気を漂わせる僕に、彼女はそう声を掛けてくれた。

 葬儀で会った恵美子は、そんな素振りは見せなかったが、今日もバイトを休んだ。

 未穂は何時もと変わりない態度で接してくれるから、何時の間にか僕も普通に接する事が出来た。

 そして帰りの更衣室で、彼女は小さな声で僕に言った。

「あのね……あたし、やっぱりああいう事はもう……」

「うん。ごめん」

「うん、大丈夫。でも、やっぱりあたし、男としたいから」

 彼女は恥ずかしそうにそう言った。

 僕は小さく微笑んで

「なあんだ、やっぱり未穂もエロいんだね」

「なっ……ふ、普通だよ」

 彼女は頬を紅潮させて言った。

 彼女はサクラのように、僕をヘンタイともオカシイとも言わなかった。

 やはり学校には似た事をしている娘がいるのかもしれない。だから、サクラに比べて少しだけ免疫があるのかもしれない。

 それとも、他人を理解しようとする彼女の優しさなのだろうか。

 でも、彼女も僕をただのレズっ気のある女だと思ったかもしれない。

 今更、そんな事はどうでもいいけど。




 僕は一見平凡な日常を取り戻していた。

 僕が洋介の事でバタバタしているうちに、昌美はオサムと別れたらしい。

 原因はよく判らないが、オサムがあまりにも部活に一生懸命な為、昌美の方が根を上げたみたいだ。

 僕たちは再び放課後になると二人でブラブラしたりするが、今はお互いアルバイトをしているのでそうそう暇な時間もなかった。

 まぁ、日曜日の昼間には一緒に映画館などに行ったりするが。


 バイト仲間の恵美子は洋介の事でずいぶん塞ぎこんでいたが、何とか元気を取り戻した。

 彼女も、殆ど見舞いに行かなかった事を悔やんでいる様子だった。

 未穂とは何事も無かったかのように普通に仲良くしている。

 彼女は恵美子にもずいぶん元気を分け与えようと気を使っていた。

 未穂は、精神的に僕たちよりも上なのかもしれない。

 だから、あんな事をした僕を蔑むことなく普通に接してくれるのだ。

 僕は再び行動を共にする昌美や、僕を軽べつ視しない未穂、そして同じ悲しみを共有する恵美子たちと触れ合う事で、傷つき崩れかけた心を元に戻せると思っていた。

 元々真っ直ぐでもまっさらでもない僕の心なんて、直ぐに元に戻ると思っていた。

 しかし、洋介を失ったショックはそれほど大きかったのか、僕の心の傾きはあらぬ方向へと捻じ曲がって修復は困難だった。

 それに気がつく事さえ、僕自身ままならなかったのだ。




 バイトの帰り道、住宅街は閑散として人通りが無い。

 街路灯は比較的多いが、大通りから入ると車通りもなくひっそりとしている。

 僕は何時ものようにただ漠然と自転車のペダルを踏む。

 前方にポツリと人影が見えた。

 街灯に照らされた人影は、制服を着ていた。確か、この辺りを学区とする中学校の制服だ。

 最近は中学生でもスカートが異常に短い。

 てゆうか、どうしてこんな時間に中学生が制服なのだろう。もう10時をまわっている。

 僕はそんな事を思いながら、彼女を追い越した。

 携帯電話を開いてメールを打っているその娘は、僕より小さい背格好だった。

 僕は、自分の身体が異常に疼くのを感じた。

 横目で彼女を盗み見て、完全に追い越してしばらく行った角を、僕は曲がった。

 その行動はまったく衝動的なものだった。

 路地をぐるりと回って、再び元の場所へ戻った。

 あの路地へ出た時、彼女の姿が無かったら諦めよう。いなくなっていてくれ。

 箍を外した欲望とは裏腹に、僕の中の僅かな善意が呟いた。

 しかし、彼女はメールを打ち込むのに夢中なのか、足取りはかなり遅かった。

 元の路地へ戻ると、前方にはさっきの中学生がまだいた。

 僕は自転車を降りて彼女に近づいた。

 直ぐ横は民家が途切れて、小さな公園が在った。その向かい側には夜は使わないコミュニティー会館。

 僕は彼女を後ろから羽交い絞めにして、コミュニティー会館の敷地に引っ張り込んだ。

 びっくりした彼女は、携帯電話を手から落していた。

「ちょっと、ナニ……」

 右手で彼女の口を塞いで、左手で胸を触った。

 かなり小さかった……ブラの感触ばかりがガサガサと手に伝わった。

 女の子は恐怖で身体がすくんで、密着した僕の身体に、彼女の身体の震えが伝わってきた。

 実際は、一人で痴漢に立ち向かえる勇敢な娘は少ないのだ。

 僕はスカートの中に手を入れて、彼女の股間を触った。

 しかし、本当はその感触を味わう余裕など無かった。

 僕よりも小さな女の子とはいえ、僕の体格では彼女を押さえつけるのに全力を注がなければならない。

 その時女の子の口元を押さえた僕の手に、温かい雫が触れた。

 彼女の涙だった。




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