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◆第24話◆

 その日バイトが終わってから携帯に留守電とメールが入っていた。

 洋介が再び入院したらしい。

「どうしたの?」

 メールを見て硬直する僕に、恵美子が声をかけた。

「洋介、再入院だって」

「うそ。退院したばっかじゃん」

「酷いのかな?」

「どうだろう。メールは誰から?」

「エナから」

「じゃあ、電話してみようよ」

 僕は恵美子に促されて、エナに電話を入れた。しかし彼女の携帯は繋がらなかった。

 洋介からあれ以来連絡がないのは、体調が思わしく無かったからなのかもしれない。



 翌朝、エナから電話が来た。

 電話が繋がらなかったので、とりあえずメールを送っておいたのだ。

「亜希子? 今から学校だよね」

 彼女はやけに遠慮がちな口調だった。

「う、うん……なんで?」

「病院来れないかな?」

「病院? 洋介どうなの?」

「とりあえず、来れたら来て」

 エナはそれしか言わなかった。

 僕は例えようの無い不安に襲われて、家を出ると学校とは反対行きの電車に乗った。

 駅から病院まではそう遠くはない。

 僕は何かに追い立てられるように、とにかく走った。

 ついこの間まで、ちょっぴり楽しい気分で歩いた道のりが、やたらと重い空気に包まれて、何だか身体まで重く感じた。

 途中で自転車に乗ったヤバイ筋の人とぶつかりそうになって怒鳴られた。

 何で自転車なんだよ。ベンツでも転がしてろ……

 僕は肩で息をしながら病院の玄関を抜けてエレベーターに乗った。

 通路を小走りに歩いていると、休憩ロビーの椅子にエナの姿が見えた。

「エナ」

「ああ、来たのね」

「うん。洋介は? 酷いの?」

「今は安定してる。一応は……今、お母さんが来てるの」

「そう」

 僕はエナの前の席に腰掛けた。

「ごめんね。学校サボらせちゃったね」

 僕は大きく首を横に振って

「いいよ、学校なんて」

「なんか飲む? 何か汗だくだよ。走って来た?」

 エナはそう言いながら、自販機の所へ行って、アクエリアスを買ってきてくれた。

 僕がアクエリアスのアルミボトルに口を着けた時、彼女は

「洋介の事、好き?」

 遠慮がちに小さな声でそう言った。

 僕は、アクエリアスを喉に流し込んでから、一息ついて

「はあ?」

「何だか、洋介も亜希子の事すごく気に入ってるみたい。4つ違いなんて、どうって事ないもんね」

 薄々は気づいていたが、やっぱりそうだ。エナはまだ洋介を好きなんだ。これだけ病院へ来るのだから当たり前か……

「洋介とは何で別れたの?」

「えっ?」

 彼女は反対に僕に問われて少し驚いていたが、気を取り直すように

「うぅん。何でかな。好き過ぎて、相手を束縛するのが嫌だったから……」

 彼女はそう言って、小さく笑うと

「なぁんて、言い訳だよね」

「あたしと洋介は、タダの友達だよ。マブダチ」

 僕は笑顔でそう言った。

「マブ…ダチ?」

「まだ浅いけど、マブダチ」

 エナはクスクスと笑って

「亜希子って、やっぱり変わってるね」

「そうかなぁ」

 僕はそう言って、再びアクエリアスを口に入れた。

「マブダチに会ってきたら?」

「でも、お母さん来てるんでしょ」

「大丈夫よ」

 僕が少し俯くと、エナは

「じゃあ、一緒に行く?」

 そう言って、立ち上がった。

 その時、通路の奥が何やら急に騒がしくなるのが見えた。

 ナースステーションから看護師や医師が部屋に駆け込んでいる。

 誰かが締め出されるように廊下に出てきた。

 エナはそれを見て

「洋介だ」

 そして、駆け出した。

 僕はエナの後を追った。

 こんな勢いで院内の廊下を走っていいのか……それほど全力だった。



 廊下に閉め出されたのは洋介の母親だった。

 エナの姿に気づくと、すがりつく様に

「洋介が……」

 再び容態が急変したらしく、看護師が慌しく部屋に出入りしている。

 医師が、医療用語を叫んでいるのが聞こえてきたが、何の事だかさっぱり判らない。

 ドアの隙間から少しだけ見えた洋介は、周囲の慌しさとは無関係にただベッドに横たわっているだけだった。

 それはまるで、医療講習用の人形のようだった。




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