表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

◆第19話◆

「あら、ガールフレンドが来てたんだ」

 病室の入り口を見ると、エナが立っていた。

 ここは4人部屋なので、部屋にドアなどはない。

 エナは僕に小さく手を振って

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 パーティーの夜見た時と違って、何だか爽やかに見えたのは、化粧が薄いせいだろうか。

 それともパンツルックのせいだろうか。

「なんだか、今日はモテモテだな」

 洋介は相変わらず力なく笑って見せた。

「あっ、じゃあ、そろそろあたし行きます」

「あら、遠慮いらないのよ」

「そうだよ」

「でも、バイトあるから」

 バイトにはまだ時間があったが、とりあえずそれを口実にした。

「そうか。じゃあ、暇だったら何時でも遊びに来いよ」

 彼はそう言って、小さく左手を上げた。

「そうそう、洋介は寂しがりやだからさ」

 エナが笑って付け加えるように言った。

 僕は二人に手を振りながら病室を出た。

 外へ出ると、セミの鳴き声はいっそう大きく感じた。

 空を仰ぐと暑い陽差が並木の間から僕を照りつけて、木立の暗闇から聞こえる喧騒に吸い込まれそうになった。

 彼は、洋介はどうして僕が、昔の親友に似ていると思ったのだろう。

 僕は、ふと彼の言葉を思い出した。

 それでも、洋介が僕にとって話し易い人間だと言う事は確かだ。年上という事を考慮しても、何だか落ち着く。

 昔の友達の事なんかを話してくれる僕は、彼にとって話し易い相手なのだろうか。

 僕は、病院の建物を見上げながら、通りへ出た。

 青い空が、締め切った窓全てに映り込んでいた。




 僕は、それから午前中に度々洋介の病室を訪ねた。

 彼の気さくな雰囲気がとても心地よかった。

 ただ、食事や水分制限している洋介には、何を見舞いに持っていったらいいのか判らなかった。




 洋介は4人部屋の窓際のベッドにいる。

 隣は空きになっていて、向かい側にはオバサン。その隣にはおじいさんがいるようだが、二人共殆どカーテンを閉めている為、よく顔を見たことはない。

「あら、いらっしゃい」

 その日、僕が病室へ入っていくと、この前のパーティーで見た男がいた。

 てっちゃんと呼ばれていた男だ。

 ハードロックカフェのちびTシャツの首には、やっぱり金色のネックチャーンが輝いている。

「洋介、結構ロリ趣味だったの?」

「ちげぇよ」

 てっちゃんは僕に向かって微笑むと

「亜希子だっけ。ほら、あんたも座りなさい」

 そう言って差し出した丸椅子を、ポンポンと叩いた。

 僕は、あまり見てはいけないと思いながらも、彫の深い不思議な彼の顔を盗み見た。

「珍しい?」

 彼はそう言って、僕に笑いかけた。

「えっ、いや、えっと……」

「哲夫は、一応女だと思ってやってくれよ」

 洋介が、笑って僕に言った。

「て、哲夫?」

「あたし、市原哲夫。だからみんなてっちゃんて呼ぶのよ」

「はあ……」

 呼ぶのよって…… 僕は、再びヒゲの剃り跡が見える、てっちゃんの顔を見つめた。

「亜希子って、なんだか少年みたいな娘ね」

 ……また言われた。

 彼も、僕に何かを感じるのだろうか。

「そ、そう?」

「なぁんか、可愛いわ。連れて帰りたい」

「おいおい、未成年だぜ」

 洋介が哲夫の腕をポンと叩いた。

「じゃあ、あたしは邪魔しちゃ悪いから、そろそろ帰ろうかな」

 てっちゃんはそう言って立ち上がった。

「サンキュウな」

 洋介が笑顔で言うと、てっちゃんは少しテレ笑いを浮かべて

「なあに、水くさい」

 そう言って、彼の手を少しだけ撫でて、僕に手を振りながら病室を出て行った。

 僕の横をすり抜けた時、プンと香水の匂いがした。


「あの人、ゲイなの?」

 僕は、そっと洋介に尋ねた。

「まあ、見た通りってとこだろう」

「ふうん」

 彼の言葉に、僕はただ頷いた。

 哲夫も洋介と同じ大学らしい。

 彼は、男の身体に女性の心……MtF−GIDなのだろうか。

 それとも、ただのオカマ? オカマって、なんだ?

 僕は、自分以上に不可解な存在を見て不思議な気持ちになったが、確かにてっちゃんは、何だか気さくで善人っぽい感じの漂う人だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ