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◆第10話◆

 正式な夏休みに入ると、再び昌美と一緒の時間が増えた。

 オサムが部活の合宿に行った為だ。その後も、練習試合が重なって、お盆まではあまり遊べないと嘆いていた。

「バイトでもしようかなぁ」

 突然昌美が呟いた。

「バイト?」

「うん。遊びたいけど、お金ないじゃん」

 そうか、バイトか。交友関係も広がるし、学校が違えばサクラのようにうまくいかない時でもまったく支障がない。

 まあ、サクラも自分がされた事、少しでも快感に溺れた事を誰かに言うとも思えないが……

「いいね、バイト」

 僕が昌美に賛同すると、早速二人で無料求人誌などをあさって、いいところを探した。




 昌美は制服がかわいいと言って、街道沿いのファミレスでバイトを始めた。

 僕はあんなエプロンドレスのような服を着るのはムリなので、もっと渋めの仕事を探す。

 しかし、傍目にはただの女子高生。そんな渋めの仕事など在るはずも無く、しかも既に夏休みに入っていた為、条件のいいバイトはなくなっている。

 結局近所のコンビニで働く事にした。

 近所と言っても、一番近い場所はオサムも来るので、とりあえず3番目に近い場所にした。駅からは少し離れているが自転車で直ぐだ。

 昼間はパートさんがいるとの事で、結局夕方から夜の時間帯になってしまったが、同じ時間帯には二人の高校生が同じようにシフトに入っていた。

 もう一人、高校生の男がいるが、これは眼中には無い。

 一人は新横浜の高校に通う恵美子。

 背は僕とあまり変わらないが、何だか胸がデカイ。夏休みだからなのか金髪に近い長い髪の毛は、サイドがクネクネと巻いてある。

 もう何度もプールに行っているらしく、肌は小麦色に焼けていた。

 それでもこんな所で地道に働く彼女は、見かけによらず真面目だ。

 もう一人はミッション系の名門校に通う未穂。

 黒髪のストレートは昌美に似ている。背丈も僕より高く、ちょうど昌美くらいだろうか。

 白い肌はこの季節、日焼け止めを欠かせないそうだ。

 もちろん学校には内緒でバイトをしているラシイ。

「入荷したお弁当を検品してここに並べて、古いものを全部どけるの」

 5ヶ月先輩の未穂は、丁寧に仕事を教えてくれる。

 客が途切れる事は殆ど無く、四六時中やる事があるので意外と忙しい。



「どう? バイト慣れた?」

 夜には毎晩昌美から電話が来る。彼女もバイト先での事を聞いてほしいのだろう。

「ずいぶん慣れたけど、何だか毎日同じ事ばっかり」

「しょうがないよ、それが仕事だもん」

「昌美はどう?」

「なんかさ、ナンパしてくる客がいんの」

「あぁぁ、いるいる、コンビニでも」

 僕はバイトに入って一週間、3回もレジの所でナンパされた。

 恵美子と未穂はもう慣れている様子で、軽く受け流す。

 僕は一応お客だと思って邪険にしてはいけないと余計な気をつかい、時間ばかり取られてしまう。

「適当に笑って流すけどね」

 昌美はそう言って、フフッと鼻で笑った。

 愛想がいい割に、意外とキッパリしている彼女が少し羨ましかった。




 梅雨が明けてからはさらに暑い日が続いていた。

 駅周辺の並木からは、セミの声がしきりに聞こえていた。

 僕は、バイト時間までの退屈をしのぐ為に、ブラブラして過ごす。

「チョト、アナタ。スミマセン」

 変な日本語が、僕を呼び止めた。

「アナタ、カワイイ。ワタシ、メチャ、コマテマス」

「はあ?」

「ワタシ、コマテマス。コンタクトオトシマシタ。コンタクト、メチャタカイ。ワタシモウ、カエナイ」

 それは、長い黒髪の東洋人だった。韓国か、中国か僕には判らないが、その辺の人だろう。

 薄いファンデに、アイメイク。オレンジ系の淡いリップ。

 言葉を話さなければ一瞬日本人と見間違うほどだが、清楚な瞳は、何だかこの国の人には無いような気がした。

 僕は思わず立ち止まって、彼女の話を聞いてしまった。

 辺りを見渡すが、日中の駅は、意外と人が少ない。

「コンタクト、落したんですか?」

「ソウデス、ワタシ、ズト、サガシテマス」

 こんな所でコンタクト落したら、見つかんないよ……

「イッショニ、オネガイシマス。アナタ、メチャ、カワイイ」

 僕は何だか彼女のあまりにも必死な呼びかけに、形だけでも探してあげなければという思いに駆られて、一緒にかがみこんだ。

 駅前の石畳の上を、じっと目を凝らして見つめる。

 ……ムリだろう……僕は、密かに溜息をついた。

 しかし、チラリと見た彼女の姿は、かなり本気モードだ。

 時々通り過ぎる人が、怪訝な顔で僕たちを盗み見て行く。

 なんで、僕だけ捕まっちゃたかな……

「もう、誰かに踏まれたんじゃない?」

 僕が呟くように言った言葉に、彼女の反応は無かった。

 ひたすら地面を舐めるように見つめている。

 彼女はマジで探す気だ。

 僕は、何処まで付き合えばいいのか、そればかり考えていた。

 首に刺さるような陽差が、やたらと暑かった。



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