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◆第1話◆

 これは、Dear Girlの続編に登場した真夕の後輩にあたる三田村亜希子が、横浜に住んでいた時のお話です。真夕の話と違い、あまり爽やかさは無く、少し生々しい描写もありますのでご了承下さい。独立した物語になっていますが、亜希子の詳細はGirls Memoryにも含まれております。

 山下公園に外人墓地。中華街に大観覧車。高く聳えるランドマークタワー。何処かお洒落な気持ちで来た横浜だったが、僕の家が引っ越して来たのは俗に言う横浜ではなく、横浜市にある下町情緒豊かな鶴見。

 ここからは海は見えない……

 実際は鶴見にも海も港もあるが、ここからは潮の香りはしない。

 父親の転勤に家族3人でついて来たが、どうやら失敗だった。

 横浜と言えば桜木町や元町をイメージしていた僕は、かなりガッカリした。

 住み慣れた春日部の方がよっぽどマシだった。

 しかし、学校へ通いだしてその気持ちもかなり変わった。

 同じクラスにも、隣のクラスにも僕好みの可愛らしい娘を見つけたのだ。

 彼女らをどうにかモノにしようと、今からワクワクする。

 それに、よく考えてみれば住宅街なんて、何処もこんなものだろう。

 中華街や元町は特別なのだ。僕は自分にそう言い聞かせて納得する。



 僕の名前は三田村亜希子。

 でも、残念ながら僕は女の子ではない。

 確かに、誰がどう見ても身体は女の子だ。

 すらりと細い身体は少し自慢で、入学式当日から何度も男子生徒に声を掛けられた。

「横浜初めてだから、ヨロシクね」なんて、笑顔でいったら、どいつもこいつもヘラヘラしながら名物デートスポットの話などを切り出す。

 しかし、僕はそんな男共に全く興味はない。

 別にレズビアンなわけでもない。

 僕は、僕。この心はれっきとした男なのだ。たぶん……

 だから、僕が興味のあるのは、女の子。

 至極当然の事なのだ。



 何時からこうなのか、僕自身もよくは判らない。

 ただ、かなり幼い頃から自分の身体に違和感を持っていた事は確かだ。

 何時も男の子に混じって遊んでいた気がする。

 でも、中学に入ると、次第にそうは行かなくなる。

 男は男らしく、女は女らしくなって、異性と言うものを意識し始めるからだ。

 周りがどうとか言うよりも、僕自身がクラスの女の子を意識しだした。

 それと同時に、自分に向けられる男の子達の何だか異様に熱い視線。

 小学生の頃から親しかった謙一は、僕のせいでイジメに合ってしまった。

 僕が個人的に親しくしていたものだから、他の男子生徒、僕に気がある連中のなかで比較的勢力を持つグループからボコにされてしまった。

「もうヤダよ。お前といるのはイヤだ」

 謙一は僕にそう言った。

「わかったよ……」

 あれだけボコられたら仕方がない。

 僕と謙一の5年間に及ぶ友達としての関係は、あっという間に消えて無くなった。

 僕は孤独なのだ。

 男の心に女の身体……実際どっちが元なのか。自分はどちらに属す生き物なのか……


 僕は、恒義つねよしという、謙一をボコッた連中の中心人物を放課後呼び出した。

 次の日曜日、デートを装って一緒に渋谷に出かけた。

 恒義は何も知らずにニヤケながら僕の横を歩く。

 時折いい気になって肩に手を回してきたりして、気持ち悪い以外の何モノでもない。

 センター街を歩いていたとき、正面からアヤシイ3人組が歩いて来たのが見えた。

 一人はロン毛の金髪、もう一人は坊主で顔に幾つもピアスが着いている。そしてもう一人は頭にバンダナを巻いて、二の腕イッパイにタトゥーが入っていた。

 ちょうどいい、あの連中に決めた。

 恒義も前方の3人には気づいていたらしく、僕の肩を抱きながら彼らの進行方向を妨げまいと端の方へ寄っていこうと、身体ごと押してくる。

 僕はキャッキャと恒義にまとわり着くふりをしながら、押し返す。

 そして、3人の男たちとすれ違う瞬間、大げさに彼を押しだす。

「やだぁ、恒義ったら」

 恒義はタトゥーの男にぶつかった。

 こういう連中なら、軽く身体が触れるだけでも充分効果はあるだろう。

「イッテェ」

 ガ体のいいタトゥーの男は、大げさに叫んで立ち止まった。

「すいません」

 恒義はとっさにそう言った。

「おいおい、謝って済む事じゃねぇだろ」

 ボウズのピアス男が、静かな口調で言った。

「ちょっと、こっち来いよ」

 金髪のロン毛が恒義の肩に腕を回す。

 恒義も、中学生の割には大きい方だが、3人の男はそれより一回り大きい。

 彼の表情は既に脅えきって、顔面が蒼白だった。

「そっちのお姉ちゃんにも、お詫びに何かしてもらいてぇよな」

 ボウズがそう言いながら、僕の細い身体を舐めるように見る。

「何かってなんだよ。おめぇエロいよ」

 金髪が言った言葉に、ボウズの視線が横を向く。

 僕は一気に走り出した。

「なんだよ、楽しいのに」

 背中から声が飛んできたが、3人のうちの誰の声かはわからなかった。追いかけられない事を祈りながら走った。

「おめぇはこっちだよ」

 一度だけ振り返ると、恒義は3人に囲まれながら細い路地へ連れ込まれるところだった。

 ……ざまぁみろ。 

 僕はべつに謙一の仕返しをしたわけではなかった。

 僕を孤独に追いやった奴らへの、自分自身の為の復讐だ。


 恒義は月曜日から一週間学校に来なかった。

 クラスが違うので、全く気にも留めなかった。

 一週間後にまだ痣の残る顔で登校してきた恒義は、人が変わったように大人しくなっていた。

 それ以来、僕は男に、つまり心の同性には気を許さなくなった。

 そして、身体の同性である少女たちと過ごしながら、ひとりモンモンとした日々を過ごした。



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